Forever&Ever(15)

 

どさりと投げ出された。
まるで手荷物でも扱うように乱暴に。
寝台の上、ロザリアは驚きで目を見開いている。
「どうしたんだい?」
楽しんでいるのか?
優しさのかけらもないこんなオリヴィエを見るのは、初めてだった。
言葉が出ない。
ロザリアは寝台の上で、ずるずると後ずさる。
恐怖が、最初の驚きに取って代わっていた。

暗い瞳が彼女を追い詰める。
逸らす事もかなわず、ロザリアは今にも叫び出しそうだ。
「何をそんなに怯えてるんだい?
いつもと同じ事じゃないか。
少し間があいてしまったけど、そのぶん、今夜は良いはずだよ。
何があんたにそんな顔をさせるんだろうね?」
長い指がロザリアの顎を捉え、くいと上向ける。
薬指にはめた派手な指輪が、彼女の顎の先に小さな引っかき傷を作った。
細くうすい傷。
そこからじわじわと、赤い血がにじみ出る。
「傷をつけてしまったね。
大変だ、アンタの綺麗な肌が・・・。」
低いささやき。
ほぼ同時に、傷口に生温かい濡れた感触が重なった。
ちろちろと動く舌。
それはそのまま喉元に滑り降り、大きく開いた襟元からのぞく鎖骨を巡り。
いくつもの飾りボタンを器用に外すと、大きく開いた胸元へとたどり着く。
もう自らを支えきれなくなったロザリアの身体が、崩れ落ちる。
寝台の上に仰向けで。
怖れを映していたはずの青い瞳に、今やそれとは違う表情が浮かんでいる。
オリヴィエは満足げに微笑して、ゆっくりとその上に我が身を重ねて行った。

ロザリアがティムカに傾いた。
それはすぐに、オリヴィエの気づくところとなった。
思い出すのはリュミエールの言葉。
ティムカは危険。
警戒の対象。
そしてあれは貴族の男だと。
自らの恋を、臆面もなく吐露してはばからない。
何のてらいもなく、恋焦がれた自分をそのまま相手にぶつけてしまう。
それができる男なのだ。
そして、自分はといえば・・・。
無理だと、オリヴィエは首を振る。
自分にはできない。
焦がれていないわけではない。
それははっきりしていた。
オリヴィエ自身、こうまで身も心も縛られる思いをしたことなど1度もないのだ。
彼女を思えば、いつでも身体が熱くなった。
彼女の見せるどんな表情もが、彼の心に動揺を与える。
彼女が楽しげに微笑めば、それはそのまま彼の喜びに変わり、打ちひしがれて泣き濡れていれば、彼の心もひどく乱れる。
そして彼女の悲しみをできるだけ遠ざけたい。
彼女を悲しませるものは、すべてすべて自分のこの手で遠ざけたいと思うのだ。
だからロザリアが自分の腕の中で、すっかり安心しきった様子をみせるのが、彼にはなにより嬉しかった。
心の底から、温かいものがこみ上げてくるようだ。
けれどその思いを、素直に口には出せない。
口に出すのはいつも違う言葉。
「仕方ないお姫様だね。」
そう言いながら、オリヴィエの沈んだ青の瞳は、この上もなく愛しげにロザリアを見つめているのだけれど。
しっかりと胸に抱き寄せて長い髪を指ですきながら、そう言う彼の表情をロザリアが知るはずもない。
「アンタじゃなくちゃだめなんだよ。」
その一言が、素直に言えないオリヴィエだった。
「アンタ以外の女では、私の役に立たないんだよ。」
もっと言えば、これこそが真実であるのに、自分がどんなに彼女に焦がれているか、どうしても彼女に告げる事ができない。
オリヴィエは、彼女にとって保護者でありたかった。
いつもいつもいつも、彼女をこの世の汚れから守りつづける強い保護者に。
弱みをさらけ出すのが嫌だった。
そしてそれを続けていくうちに、本当に少しの弱みも漏らせなくなっている自分に気がついたのだ。
ティムカは、その間隙を縫ってロザリアの心に忍び入った。
自分がこんなにも大切にしてきたロザリアを、掠め取る。
激しい怒りと嫉妬が、彼の身を焼いた。

オリヴィエは我が身の下に組み敷いた白い身体に、狂ったように唇を這わせてゆく。
ここも、そこも、それから・・まだその先も・・。
本来彼1人のものであるべき白い肌。
そこについた汚いしみを、ひとつひとつ清めて行かねばならぬ。
彼の指に、唇に、ロザリアの身体が反応を見せ始めた。
うっすらと汗ばんだ肌から、オリヴィエのよく知るロザリアの香りが立ち上る。
少し呼吸を乱しながら、オリヴィエは彼女の胸元で顔を上げる。
「どうした?
まだ足りないかい?」
目を閉じたロザリアが、唇を半開きにして首を振る。
それはいつもの表情だった。
だがそれが、ふいにオリヴィエの心に暗い炎を投げかけた。
この表情。
これをヤツにも見せたのか!?
ぎりぎりの愛しさは憎しみと隣り合わせにある。
理屈では知っていたその事を、今やオリヴィエは我が身で知ることとなった。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
のけぞる細く白い喉。
オリヴィエの指は、いつかその細い喉元にかけられて。
ほんの少し、少しだけ親指に力を入れたら。
それでロザリアは永久に自分だけのものだ。
暗く甘いささやきが、心の内から聞こえてくるようだ。
わずかの間、オリヴィエはじっとそのまま心のささやきに捕らわれていた。
「オリヴィエ?」
はっと我に返る。
見上げる蒼い瞳。
彼のもたらした快感に、けぶるような表情を浮かべて。
疑ってなどいない。
まるで彼を疑ってなどいないロザリアの視線に、オリヴィエの心のゲージが元に戻った。
愛しい。
どうあっても、なにがあっても、やはり自分にはロザリアしかいない。
「好きだよ。」
低くささやかれた言葉に、ロザリアの頬が染まる。
「急に・・・・。
どうして?」
問い返すその言葉は、再び重ねられた唇に吸い取られ、最後まで音にはならなかった。