Forever&Ever(16)
かつて失われた大地が次々と、アルカディアの地に戻る。
それは栗色の髪のアンジェリーク、新宇宙の女王たる彼女の育成が、順調に進んでいる何よりの証だった。
王立研究院からの報告に目を通した女王補佐官ロザリアは、報告書を執務机の上に置くと、窓の外に視線を遊ばせた。
「もう・・すぐね。
じき、終わるわ。」
育成地は既に、それぞれのサクリアの色を放つ建物によってうめ尽くされていた。
じきにこの騒動は、最終局面を迎える事になるだろう。
それはロザリアや金の髪の女王、それに彼女らとともにこの地にある守護聖たちが、本来いるべき場所に戻れるということであった。
平穏な日々が再び訪れる。
喜ばしいことではないか。
そうあるべきである。
だが・・・・。
ロザリアの胸中は複雑であった。
アルカディアでの騒動が終わる時、それは彼女が決断を迫られる時でもあったから。
「僕と共に、来てくださいますね?」
ティムカからのプロポーズは、次第に強引さを増してきている。
多忙を口実にして、ロザリアがティムカと過ごす夜を避け始めて以来、彼は彼女を見かけるともう辺りをはばかることさえしない。
誰の目にも明らかな恋情を浮かべた表情で、ロザリアの姿を追いかける。
どんな偶然も逃さない。
執務室の前の廊下で、あるいは朝の庭園で。
とにかくその時に2人きりでありさえすれば、彼は即座にロザリアを抱きしめる。
つい先ほども、ロザリアはそんな目にあっていた。
王立研究院からの帰り道。
彼の姿を認めたと同時に、ロザリアの細い眉は寄せられて、足は急いで元来た道へと方向転換をしたのだけれど・・・。
遅かった。
追いかけるティムカの腕のすばやい事。
ロザリアの身体をからめとる。
「僕を避けていますね?
恨めしいです。
こんなに、こんなに、僕はあなたが好きなのに。」
潤んだ黒い瞳には、ロザリアの姿しか映っていない。
恥や外聞を気にする余裕など、ティムカは既になくしている。
やや細身の少年くさい長身に、長い腕。
王族の証である装飾品で、美しく飾られた褐色の両の腕が、彼女の背中を強く抱いた。
「僕を愛してください。
お願いだから。」
耳元でささやかれるいつもの言葉。
少し前までなら、我知らず酔いしれていたこの言葉が、最近のロザリアには重かった。
「だめよ、ティムカ。
放してちょうだい。」
冷めた声で応えると、腕をつっぱりティムカの身体を押しやった。
「じきにすべて終わるわ。
わたくしも陛下も、今は他の事を考える余裕がないの。
わかってね。」
実のないその言葉から、誰よりも目を背けたいのはロザリア自身だった。
1度は彼の恋を受け容れて、そしてそれによって幸せな気分にさえなった自分を、彼女はけっして忘れてはいない。
それなのに、今同じ彼からの言葉を重い負担に感じてしまう、自分の心の勝手な動きを嫌悪する。
そして彼女の冷たい言葉にうなだれるティムカの姿が、ロザリアの罪悪感をさらに増幅させていた。
逃げ出したい。
ここから、彼の前から、一刻も早く。
「ごめんなさい、ティムカ。
それでは、わたくし、急ぐから。
ごきげんよう。」
視線も合わさないまま、ロザリアは早口にそれだけを言い捨てる。
「逃げるんですか?」
昂ぶった声が、彼女の背を追いかける。
逃げる・・・。
以前のロザリアならば、その言葉に反論せずにいる事など不可能だったはずだ。
けれど今は違う。
逃げる・・。
そのとおりだと認めざるを得なかった。
「あなたは、卑怯です。
良いとも、良くないとも、どちらの答えも下さらない。」
負けを認めた男の声だった。
恨み言を言いながら、それでもあきらめることはできない。
どんなに相手に手ひどい扱いを受けようと、それでも恋しくて仕方ない。
それは負けである。
恋の力関係において、彼が恋人の下位に立つことを意味していた。
「答えたくないというのなら、仕方ありません。
すべてを差し出して、僕はあなたの心を請いました。
僕に応えて欲しいと心から願った。
もう・・・十分でしょう?
後は・・・、この後は・・・。
待つのをやめるだけです。」
ロザリアの背中に、痛いほどの視線が突き刺さる。
振り向けば、そしてその視線に捕まれば、きっとそのまま流される。
自分の意思とは関わりなく、きっとティムカの思いの渦に巻き込まれてしまう。
それだけは、避けたかった。
自分がどうしたいのか、自分の心をのぞいて問い詰める前に、そうなることだけは避けたい。
「ごきげんよう。」
もう1度そう言うと、ロザリアは立ち去った。
逃げ出した。
ティムカの厳しい質問の前から。