Forever&Ever(2)
2度目の出会いは、すぐにやってきた。
即位を前に聖地の異変が告げられて、僕は迷わず父に願い出た。
「聖地に異変です。
僕がお役に立てるのなら、行ってお手伝いをしたいと思います。」
病床にある父は、黙って僕を見つめていた。
そして何も聞かずに頷いて、僕のわがままを許してくれたものだ。
多分、父は気がついていたのだろう。
聖地から戻った僕が、当分妻を娶る気はないとはっきり言った時。
僕をじっと見据えて、それからため息と共に目を閉じた。
「好きにすると良い。
おまえの未来だ。
だが、おまえの未来はおまえだけのものではない。
それも・・・、そのうちにわかるとは思うがな。」
かなわぬ恋に焦がれる僕の心を、父も母も知っていたのだろう。
それきりお妃候補の話は、誰からも持ちかけられなくなったから。
そして僕はあの人に会えた。
たった数ヶ月。
離れてから数ヶ月だった。
他所の時空にある宇宙から、敵が侵略してきたと言う。
あの人は敵の手に落ちたまま。
「宇宙の異変です。
僕にできることならば、なんだってさせていただきますよ。」
殊勝な言葉は、本当ではない。
あの人を救いたい。
そしてもう1度あの人に会いたい。
あの蒼い瞳に僕を映して、そしてあの声で僕の名を呼んでもらうこと。
それが僕の正直な望み。
そのためにだけ、僕はあの長く苦しい戦いに耐えたのだ。
そしてその甲斐あって、僕達は聖地を取り戻した。
けれど、あの人はやはり僕を見てはくれない。
解放されたあの人が最初に取りすがったのは、夢の守護聖オリヴィエ様の腕だった。
普段の慎み深さも忘れたように、あの人はオリヴィエ様の腕に崩れ落ちた。
「よく頑張ったね。」
聞き取れないほどの低い声で、オリヴィエ様は言った。
そしてぐったりとしたあの人を抱き上げると、そのまま謁見の間の扉へ向う。
「補佐官殿を休ませる。
後は、頼んだよ。」
僕達に背中を向けたまま。
あの後姿。
羨ましくて、羨ましくて、とても悲しかった。
ふざけた口をきき、ふわふわと浮ついた様子ばかりを見せる夢の守護聖が、確かに大人の男なのだと感じられて。
あんな風に軽々と、あの人を抱え上げる事のできなかったあの頃の僕は。
その翌日。
聖殿の中に仮に与えられた部屋で、僕は目をさました。
簡単に身じまいをした後、窓を開ける。
聖地の動乱はおさまって、その夜開かれる祝賀会を最後に、僕達はまた下界へ下りることが決まっていた。
美しい聖地の景色も今日限り。
そしてあの人と同じ空を仰げるのもやはり今日限りで・・。
その事実が、僕をとても不機嫌にしていたあの朝。
テラスに出ると、夢の守護聖に身体を預けるようにして、ゆっくりと庭園を散歩するあの人の姿が見えた。
あの人の背を大事そうに抱きかかえた男は、時折あの人を見下ろして、愛しげに微笑する。
それに応えるあの人の目は、まるで夢を見ているように優しげで愛らしくて。
僕には見せた事のない顔。
向けられた事もない視線。
僕の胸の奥で、ろうそくの芯が焼けつくような小さな音がする。
ただただ不快で、それ以上1秒だってその顔を見たくないと思った。
逃げるように部屋へ入り、もうすっかり朝だというのに、おもいきりカーテンを引いた。
ざぁ・・・・・。
乱暴な音と共に、部屋の中が真っ暗になる。
そのまま僕はベッドに身体を投げ出した。
さっき起きだしたばかりのそこは、まだほかほかと温かく、いつのまにか僕は泣いていた。
枕に顔を埋め、声を押し殺し、自分が13の子どもである事を、ただひたすらに恨んでいた。
そしてその翌日、僕は聖地を後にする。
帰国してすぐ、僕は即位した。
13才の国王。
故郷の人々はとても喜んでくれて、にぎやかな祝賀の宴が3日も続いたのを覚えている。
王太子としての責任は確かに重かったけれど、今即位してみて思い返すに、あの頃はまだまだ気楽な身分であったような気がする。
僕の後ろには父がいた。
病弱で政務にかかりきりになるわけにはいかなかったけれど、それでも表向きのことは父の名において取りしきられていた。
僕はただ父の言うとおりに、仕事をこなしていただけ。
自分で考え、そして決断する事を始めたのは、即位してから後の事だ。
あれから3年。
たった3年だったけれど、僕にとってのこの3年はそういう時間だった。
自分で考えて決断し、その事に責任をもつことを覚えた時間。
だが、またも聖地に異変が起こり、できるなら協力を仰ぎたい。
聖地からそういう申し出があった時、既に即位して自由の効かない身であったにも関わらず、僕は二つ返事で承諾した。
その理由はたった一つ。
もう1度あの人に会いたい。
会って今度こそ、僕を見てもらうのだ。
お菓子の似合う小さな男の子ではない僕。
国王の務めさえも忘れるほどに、焦がれ焦がれた僕を。
3年ぶりに会ったあの人は、相変わらず美しくあでやかだった。
「驚いた。
見違えてしまったわ。」
夢にまでみたあの人の言葉にも、僕はもううろたえはしない。
「お久しぶりです、ロザリア様。
お元気そうで何よりです。」
あの人の手を取ってくちづける。
「こんなことを申し上げては不謹慎かもしれませんが・・・・。
僕は嬉しいです。
また、あなたにお目にかかれましたから。」
しっかりと、あの人の目を見つめて微笑した。
見開かれたままの蒼い瞳。
あの人の白い頬が、うっすらと染まる。
僕は、16才になっていた。