Forever&Ever(20)

 

雨が降る。
さぁさぁと静かな音をたてて、細い細い針のような雨が。
「珍しい事。
そんな季節ではありませんのにね。」
開け放たれた窓を閉めながら、僕付きの侍女が口にする。
全くそのとおりだ。
雨季でもないのにここのところ毎日だった。
必ずこうして雨が降る。
数時間、長くても一晩で上がる雨だったけれど、それでもこの惑星の気候では、そうそう考えられることではない。
けれど・・・・。
僕は驚かない。
この雨は、きっと僕の心のなせる技。
この星は優しい星だから、きっと主の心にシンクロしているんだろうと思うから。
「今日はもう良いよ。
おさがり。」
侍女に退出を命じた後、僕はゆっくりと目を閉じた。
さぁさぁと規則的な雨の音。
明日には、僕の結婚式が予定されていた。

「ごめんなさい。」
一言で、あの人は僕の思いを退けた。
よく晴れたあの日、夕暮れの日向の丘で、僕はあの人から最後の返事をもらうことになっていた。
どうして?
なぜ?
何が足りないというのですか?
次々とこみ上げる言葉のどれもを、僕は必死の思いでかみ殺した。
血の気のない白い顔。
だけどあのきつい青の瞳は、しっかりと僕をみつめて瞬きもしない。
聞いてどうなるものでもない。
口にしたところで、それはただの恨み言
震える唇を引き結んだあの人の表情で、僕はそれを知った。
どんな言葉も届かない。
僕には、もうあの人の心を翻す術はないのだと。
知らぬ間に僕は拳を握り締めていた。
だめだと、もうどうしようもないのだとわかっていても、それでもあの人を問いただしてしまいそうな衝動を抑える為に。
「ティムカ・・・・。」
きっと僕はひどい顔をしていたのだろう。
あの人の気遣わしげな声が、僕の名を呼んだ。
胸に楔が打ちこまれるようだ。
ずきんと鋭い痛みが、僕の身体を貫いた。
「・・・ないでください。」
あまりの苦しさに、僕の声はほとんど音にはならなかった。
途切れてかすれがちの応えに、あの人は眉を寄せて僕に手を差し伸べる。
「ティムカ・・・。
わたくしは・・・。」
「呼ばないで・・ください。
僕の名前を。
もう・・・、僕のものにならないその声で、僕の名を呼ばないで。」
さしだされた手を引き寄せて、そのまま抱きしめてしまいたい衝動に僕は耐えた。
目を閉じて首を振り、あの人の全てを僕の五感から遠ざけようと。
だけどだめだ。
僕の身体が覚えてる。
あの人の香り、あの人の声、あの人の視線、あの人の・・・すべて。
けっして僕のものにはならないのだと、残酷な事を言い放ったその同じ唇で、あの人は心配そうに僕の名を呼ぶ。
「行ってください。
お願いですから。
どうか・・・もう行って。」
きつく目を閉じたまま、僕はあの人に背を向けた。
僕の後ろであの人は少しだけためらって、そしてそっと丘の出口へと向かう。
小さな靴音。
微かな気配。
行かないで!
すがり付いて泣き喚きたい僕の心の叫びを、あの人は聞いてくれただろうか。
やがて靴音は遠くなり、僕は1人取り残された。
閉じた目の前に広がる青い海。
夕暮れの薄闇にのまれていくそこからは、優しい潮の香りがした。

故郷に帰った僕には、国王としての務めが待っていた。
「もう・・・良いだろう?
覚悟は良いな?」
病床にある父の言葉が何を指すか。
僕はただ頷く事しかできなかった。
「では決めるぞ。
あの姫は、王族に連なる血筋でおまえより4つ年下だ。
まだ幼いがきっと美人になるだろう。
良い王妃になるはずだ。
きっと・・な。」
聖地行きは僕の最後のわがままだった。
僕の気持ちのけじめをつけるのに必要だろうと、父が重臣たちを説得してくれたものらしい。
わがままは終わった。
それは同時に僕の少年の日が、終わる事を意味していた。
切なく激しいあの思いは、少年の日の思い出にしなくてはならない。
僕にはこの惑星の国王として、なすべき務めがあるのだから。
のばしのばしにしてきた妃選びにも、否やは言えない。
「はい。
とうさまの良いように。」
そう答える他はない。
そしてすぐに、僕の婚約と式の日取りが正式に発表された。

雨が降る。
明日には、この星の主の晴れの式が待っているというのに。
憂鬱な思いで、僕は窓の外をぼんやりと眺めた。
明日には心ならずも妻を迎える自分の身を思うと、どうしようもなくやるせない。
嫁いでくれる姫が悪いのではない。
誰が来ようと同じなのだ。
事ここにいたっても、僕はまだあきらめきれない。
僕の隣りにいるべきは、ただ1人。
どんなに願っても望んでも、どうしようもないことだと知っていても、それでも思う。
明日、その人はやってくる。
聖地に貢献した僕への礼に、女王陛下が使わされるお祝いの使者として。
僕の式を祝う為に、あの人以外の妻を迎える僕を祝う為に、あの人は来る。
けれど、僕の心はざわざわと波立っている。
あの人が来る。
ただそれだけのために。