Forever&Ever(6)
見る。
その意味するところがなんなのか、すぐに理解した。
けれど同時に、理解してはいけないことでもある。
知れば、答えを求められる。
そしてそれは、ロザリアにとってあまり望ましい事ではなかったから。
知らぬフリで、問い返す。
「あなたを見ない?
わたくしがいつあなたを無視して?
おかしなことを言うのね。」
「僕の言い方が悪かったのでしょうか?
ではもう1度、わかるようにお話しましょうね。」
冷たい視線に少しもひるんだ様子なく、ティムカはロザリアとのわずかの距離を狭めた。
ほとんど至近距離にまで近づいて、ロザリアの右手をそっととる。
「けっこうよ。
うかがう気はないわ。」
振りほどこうと抗うロザリアの声が、高くなる。
「はなしなさい、ティムカ。」
ティムカにとられた右手が、いきなりぐいと引き寄せられて。
次の瞬間、ロザリアはティムカの腕の中に抱きかかえられていた。
「こうしたかったんですよ。
初めてお目にかかったあの日から、僕はずっとあなたをこうしたかった。」
背に回された腕は、しっかりとロザリアを抱きしめて離さない。
ロザリアの耳元に、震える声がささやきかける。
「あなたが好きです。
どうか僕を見てください。
正面からきちんと、僕を。」
抗う事を、ロザリアは忘れた。
そしてうかうかと、ティムカのしかけた罠にはまった自分を、なじっている。
しまった。
言わせてしまった。
聞いてはならない言葉だったのに。
アルカディアの大地に、アンジェリークの力が満ちるのはまだもう少し先の予定である。
ロザリアは親友である女王と共に、ティムカたちと協力してアンジェリークの育成を手助けしなくてはならないのだ。
ティムカとこんな会話をもつことは、好ましいとは言えない状況である。
ロザリアには恋人がおり、そしてそれをティムカは知っている。
まっこうから彼と張り合う覚悟がなければ、ティムカもこんなことは口にするまい。
だが彼は口にした。
面倒な事になる。
ロザリアは苦い思いだった。
ふわふわ浮ついた軽口ばかりたたいているように見えるオリヴィエであるが、実のところとても嫉妬深い。
今日の事が、もしどこからか彼の耳に入れば・・・・・。
ティムカと彼の間に、なにかしらの諍いが起こる事は目に見えていた。
「困るわ。」
ぐるぐると回る思考の輪をまとめて、ロザリアはようやく口を開く。
「わたくし、あなたに応えてさしあげられませんもの。」
両手でそっと、ティムカの胸を押しやった。
少しだけ自由を取り戻した首を上向ける。
「ごめんなさい、ティムカ。
聞かなかったことにさせていただくわ。」
ロザリアの身体が、突然自由になる。
背に回された強い腕が解かれたのだ。
だがロザリアは動けない。
彼女を見下ろす黒い瞳が、腕よりももっと強い力で彼女を縛っていたから。
「そんなに・・・・。
そんなにオリヴィエ様が良いのですか?」
食い入るような瞳が、ロザリアの目の前にあった。
すらりとした長い指が、彼女の頬にそっと伸ばされる。
「何処が違うのです?
彼と僕と。
僕ではだめだという理由を教えてください。」
強い視線とは反対に、その声は弱く震えていた。
伸ばした指が何度か頬を上下する。
強い視線はやがてじりじりとした焦りに代わり、そして最後には切なげなそれになっていた。
「教えて・・・。」
親指がゆっくりと彼女の唇をなぞる。
「教えてください。
どうか・・・。」
背筋にざわざわと、快感への期待が走る。
ぞくんとした身の内のざわめきに、ロザリアは思わず目を閉じた。
だめ・・・・。
心の抗いは声にならない。
だめ、このままこにいては・・・。
ゆっくりと何度も行き来する彼の指が、彼女の頭の芯をぼんやりさせてゆく。
離れなければ。
そう思うのに、身体が従わない。
だが人払いをしたとはいえ、ここは王立研究院である。
いつ誰が来るやも知れぬ。
もう1度きつく目を閉じた。
「おやめなさい。」
はりついたような声だったが、なんとか口にする事ができた。
目を開いたロザリアは、ティムカの指と視線の魔力をふりきった。
適度な距離を取りなおし、あらためて言う。
「もう1度言うわ。
聞かなかったことにさせていただくわね。」
さすがに微笑は無理だった。
後はすぐに背を向ける。
これ以上の長居は危険だ。
笑うならば笑えば良い。
確かに、自分は今動揺しているのだ。
かわいい弟のようだった少年が、まさか自分にこんな思いをさせようとは。
みっともないほどに狼狽する自分を自覚しながらも、ロザリアにできたことは建物の出口に急ぐ事だけだった。
「あ・・・・。」
その背に伸ばされた腕とすがりつくような瞳。
ロザリアは、それを感じる余裕もなくしていた。