Forever&Ever(7)
聖地の一部にとても高い山がある。
そのふもとでしか採れぬ希少な葉を使った紅茶は、深い深いルビーの色で、マスカットのような香気がオリヴィエのお気に入りであった。
白地にツタの絡んだ意匠のカップも、それを淹れるためにだけ、聖地から持ち込んできたものである。
二つ並んだティーカップに、美しいルビー色の液体が揺れる。
だがそのお気に入りのセットを前にしているにもかかわらず、オリヴィエはとても不機嫌な顔をしていた。
「で?」
短く発した問いかけも、その気分の現われである。
さっさと用件に入れ。
いらいらした視線が、正面で優雅に微笑する、水色の髪の男に向けられる。
「世間話にしては悪趣味だと思うけど?
ゴシップをわざわざ聞かせに来てくれたってわけ?」
たまりかねて早口になったオリヴィエに、水色の瞳はさらにやわらかく微笑する。
「とんでもないことです。
わたくしは、ただ・・・、わたくしが見たままのことを、お知らせに上がっただけですよ。
そんなゴシップだなどと、心外ですね。」
キツネが!
オリヴィエは心の中で罵っていた。
アルカディアの大地の育成は、新宇宙の女王アンジェリークによってなされている。
オリヴィエたち9人の守護聖と、前回の女王選出試験に立ち会った幾人かの男たちは、聖地の女王の名の下にこのアルカディアの地に召喚された。
新宇宙の未来の危機を救うため、協力せよというのである。
だが実際にその育成が始まってみると、オリヴィエたちのできる事は限られていた。
アンジェリークの依頼があれば、その意のままに自身のサクリアを提供するのであるが、それは毎日の事ではない。
それ以外の時間は空いていて、そしてその空き時間にすべき仕事も見つからない状況であった。
聖地にあれば、すべき仕事はいくらもある。
けれどここでは、正直暇を持て余しているのだ。
「そんなことでどうする。
我等にできることもあるはずだ。
我等に期待してくださる女王陛下の名に恥じぬよう、おのが義務を真摯にみつめないでどうするか?」
年かさの守護聖の中には、そんな風にいきり立つものもいるにはいたが、暇なものは仕方ない。
別に怠けているわけでもなし。
義務を果たしていないと責められるのは、筋違いだとオリヴィエは思っている。
今日も、育成依頼の予定はない。
それでもとりあえず、オリヴィエは執務室に当てられた部屋で午前中を過ごした。
急な依頼がかかるかもしれない。
それに待機していたわけだが、正午をまわってもアンジェリークの来る気配はまるでない。
「あ~、暇だ。」
執務机に腰掛けて、大きく両腕を伸ばしていたところ、
「オリヴィエ、わたくしです。」
ノックの音ともに、珍しい声がかけられたのだった。
執務室に続く隣りのリビングに、オリヴィエは来訪者を通した。
大歓迎という相手ではなかったが、それでも退屈しのぎの話し相手くらいにはなるだろうと。
かつてロザリアが女王候補だった頃、オリヴィエとリュミエールは彼女を巡っていささか険悪な関係であった。
結局オリヴィエが彼女の心をとらえたことで勝負はついたわけだが、その時のわだかまりが全く消えたという訳でもない。
無論リュミエールは、すっかり忘れたかのように、穏やかな優しい態度でロザリアに接している。
公式の場でオリヴィエに特別なにかするわけでもない。
だがオリヴィエは知っている。
たとえば早朝ロザリアを抱いて庭を散歩している時。
たとえば彼女を抱いて踊る、パーティの会場で。
どこからかじっと見つめる冷たい視線。
その先にあるものが何なのか。
あきらめてなどいないのだ。
リュミエールの思いを、オリヴィエは承知していた。
だが自分に好意を持っていない相手の訪問をさえいとわぬほどに、この時のオリヴィエは退屈していた。
「珍しいね、リュミエール。
あんたが私のところに来るなんてさ。」
そう言いながら、とっておきの紅茶を淹れてやる。
甘く爽やかな香気が立ち上り、リュミエールの口から感嘆の声が上がる。
「ああ、良い香りですね。」
ティーポットを手にしたまま、オリヴィエはその声に振りかえる。
「でしょ?
珍しいお客様だからね。
とっておきのヤツ、出してあげるよ。」
繊細な美貌にとろけるような微笑を浮かべたリュミエールに、すっかり油断するほどオリヴィエはお人よしではない。
目の前の麗人の真意を探るためのアンテナはきちんと張り巡らせて、その上で親しげな言葉に笑顔も添えた。
リュミエールの白い手が、さしだされたカップを受け取る。
「こんなに歓迎されるとは。
嬉しいですね、オリヴィエ。
ですが・・・・。」
細い眉を寄せて、リュミエールは憂い顔を作った。
「ん?
ですが?」
オリヴィエが促すと、ためらいがちにもう1度、リュミエールが口を開いた。
「こんなことを申し上げて良いものか、ずいぶん迷ったのですけれど。
知ってしまったわたくしが、黙っているのもなんだか要らぬ詮索をされそうですから。
申し上げてしまいますね。」
もったいぶった言い方はいつものことで、正直オリヴィエにはいらいらするものであったが、今はその先が聞きたかった。
黙っていることにした。
「ティムカには、用心された方がよろしいようですね。」
「え?」
思わず聞き返していた。