Die Station ~ die zu Heaven fortsetzt~(5)
聖地よりはるか遠く離れた空間に、ただ一つ浮かぶ星。
真新しいその惑星に街を作り、やがてその民が惑星中心部にある聖地とのゲートを開くまで。
それが2人の女王候補に与えられた、試験の課題であった。
緑の瞳をした候補、アンジェリークの導く大陸の名はエリューシオン。
楽園を意味するこの名を、彼女は大陸に与えた。
残る一方の候補ロザリアは、フェリシアの名を選んだ。
意味するところは「至福」。
「きっと美しい街になりますわ。」
彼女ら候補は、定期的にそれぞれの大陸への視察を義務付けられているのだが、その回廊に使われる王立研究院の帰り道、こぼれるような笑顔でロザリアは決まってそう言うらしい。
光に満ちた美しい街。
整然と規律正しい発展の様子に、彼女の努力がうかがわれる。
人の、惑星の未来を導くという大層な課題が、重くないはずはない。
彼女の1日は、ほとんど王立研究院の資料室で費やされている。
だが彼女はいつもすっきり背を伸ばし、やわらかい微笑を浮かべて乱れた様子も見せない。
そして言うのだ。
「フェリシアはもっと美しくなりますわ。」
楽しそうに。
「どうみたってロザリアが優勢だね。
あれは天性の資質ってヤツさ。
女王になるために生まれてきたような子だよ。」
丁寧にカールした巻き毛を指でもてあそびながら、夢の守護聖オリヴィエは言った。
炎の守護聖オスカーの執務室。
執務机に腰掛ける無作法も、オリヴィエがすると気にならない。
すっきりとした細身の長身は、女性であると言ってもとおるほどのきらびやかさでに飾り立てられている。
金のブレスレットが幾重にも重なった腕を動かして、デスクで作業中のオスカーの目の前に1枚の紙片を差し出した。
「先週までのフェリシアのデータだよ。
今、王立研究院からもらってきたんだ。
ほやほやだよ。」
オスカーの視線は相変らず、デスクの上に広げられた書類に落とされたままである。
「そうか。」
まるで興味なさそうな生返事。
「いったいどうしちゃったのさ、オスカー。
書類とにらめっこなんて、あんたらしくもない。」
野性的な色を映した氷の瞳が、好奇心に満ち満ちてなにかを語るだろうと、オリヴィエは予想していたのに。
肩透かしをくらわされたような気分が、意外そうな声を出させる。
「まるで、ジュリアスだよ。
お~やだやだ。
仕事の虫だ。」
大袈裟にぶるっと震えて見せた。
そこでオスカーはようやく視線を上げた。
「おいオリヴィエ、良いのか?
女王試験期間中は、俺達だってそう閑じゃない。
おまえにだって、片付ける仕事があるだろう?
油売ってないで、さっさと片付けた方が良いと思うがな。」
意地悪げな微笑を浮かべて、オスカーは人差し指で執務室の扉を指した。
「帰ってくれ。
今日の仕事は今日のうちにする。
それが俺のやり方でね。」
「はいはい。」
肩をすくめたオリヴィエが、こちらも負けずに意地悪げな微笑を作りそして言った。
「ったくね~。
あんたのこと色男だのプレイボーイだのと、巷じゃいろいろと言うけどさ。
みんな知らないんだよね~。
ホントのところは、このとおり。
クソがつくほどの生真面目、野暮天なのにさ。」
「言ってろ。」
再び書類に視線を落としたオスカーが軽く流す。
「わかったよ。
じゃ、私も戻って片付けるとしようね。
たまには野暮天になるのも悪かないさ。」
オリヴィエの去った後、強い残り香にオスカーは軽く眉を寄せて首を振った。
「あいつ、また香水変えたな。」
空気を入れ替えようと立ちあがり、窓のとってに手をかけた。
既に夕暮れで、辺りはすっかり薄暗い。
思ったよりも長い時間、デスクに向っていたようだ。
オリヴィエには格好の良いことを言ってみたが、さすがにどっさり積まれた書類の山を今日中に処理するのは無理である。
「そろそろ切り上げるか。」
開け放った窓辺で、そう口にした時、目の前をなにかがちらりとかすめた。
人影?
薄暗がりに目を凝らし、動く影を追った。
「ロザリア?」
気づくのに時間はかからなかった。
出てきた方角にあるのは、王立研究院。
連日資料室に缶詰になっているとの噂は、なるほど真実であったかと思う。
声をかけようか。
その時のオスカーは、彼らしくもなく躊躇った。
長時間の書類処理の疲労が、彼からいつもの大胆さを奪っていたようにも見えるが、実のところそれは彼がそう思いたいだけであったのかもしれない。
彼自身、女性の扱いに長けた色男を自認していたが、オリヴィエなどに言わせると
「あんたは色男のフリをしているだけ。」
なのだそうだ。
本当のところは、先ほどの憎まれ口どおり
「クソ真面目な野暮天。」
なのだそうで。
ともあれ、その時の彼は躊躇った。
声をかける口実がなかったのだ。
「やぁお嬢ちゃん。」
そんな風に声をかけて、いやがる彼女の反応を楽しむという気分ではなかった。
1日の育成に疲れて帰宅する彼女に、ふわりと温かい言葉をかけてやりたいと思う。
それがみつからない。
ふと、彼の頬に微笑がためられた。
そうだ、あれがある。
オスカーは机の引出しを開け、なにやら取り出すと、そのまま執務室の扉を抜けた。
「ロザリアじゃないか?」
誰何するような声色を作った。
わざとらしくないように、十分気をつけてはいたが。