Die Station ~ die zu Heaven fortsetzt~(9)

女王選出試験は、その半ばをもって終了となる。
素養と資質、それに努力が加われば、ロザリアの優勢は誰の目にも明らかで、なによりもう一人の候補、金の髪のアンジェリークが最近になって候補を降りると言い出したことが、ロザリアの即位を決定的なものにした。
「女王様にはロザリアがなれば良いよ。
私よりずっとふさわしいもん。」
あどけない笑顔でそう言った少女は、今は闇の守護聖のもとにある。
無口で笑うこともない黒髪の、あの闇の守護聖クラヴィスが、どうしてもと望んだのだという。
謹厳な光の守護聖ジュリアスは、もっての他のことと咎めたが、当のクラヴィスは涼しい顔をして自分の思いを通した。
「クラヴィス、そなたにはわかっていよう?
私同様長くこの地にあって、女王候補のなんたるか、知らぬそなたでもあるまい?」
金色の眉を吊り上げ咎めるジュリアスに、物憂げに肘をついたままの姿勢でクラヴィスは微笑んだ。
「知っている。」
「では即刻…。」
「ああ、即刻…、我がものにする。言われなくとも…な。」
「クラヴィス!そなた!」
かくして女王試験は終わり、ロザリアは女王となる。
それは彼女が名をなくす時でもあった。
カタルヘナの青い薔薇。
そう呼ばれた日々、懐かしく優しい日々とともに。

「明日即位なされば、これまでとは違ってまいります。
なにもかも…。
お心残りのございませんように。」
明日は即位だという夜、ロザリアのもとを訪れたジュリアスが、恭しく膝をついてそう告げた。
青を基調に整えられたこの部屋は、候補として召還された時ロザリアに与えられたもので、寝室と書斎が一緒になった手狭な空間ではあったが、必要なものはすべて揃っていたし何より清潔であった。
初めこそ生家の自室と引き比べて居心地の悪い思いをしたものの、今ではすっかり慣れていて、それなりの愛着もある。
青い絨毯の床に跪いた光の守護聖をぼんやりと見下ろしながら、ロザリアはこの部屋とも今日でお別れだと思った。
誇り高い首座の守護聖が跪く相手は、この世にただ一人、女王の他ありえない。
明日には女王になるのだ。実感した瞬間であった。
「オスカーをつけましょう。
どこへでも、お望みの場所へおいでください。」
最後にそう言ってジュリアスは、部屋を出た。
入れ替わるようにして訪れたのは、赤毛の長身。
「レイディ、さあどこへ行きたい?
どこへでも連れてくぜ?」
キザな台詞は相変わらずで、明日女王になる少女を相手にしているなどと、毛ほども思っていないように見える。
普段なら癇にさわるそのことが、今日のロザリアには心地よい。
いつか自然に微笑していた。
「ええ、お願いいたしますわ。」
「じゃあすぐに仕度するんだな。
俺と過ごす時間は早く過ぎるぜ?」
大げさなウィンクを一つ。
そして唇の端をあげてにやりと笑う。
キザを絵に描いたらこうなるのだろうと思うと、おかしくなった。
くすっと笑いを漏らしたロザリアに、ばさりと音をたてて派手にマントを翻し、近づいてそして長身をかがめて覗き込む。
「レイディ、舞台の幕開けだ。
せいぜい派手に楽しむさ。
つれてってやるよ。
ロザリア、君の望むところへ。」
次の瞬間、ロザリアの視点の高さが変わった。
身体はオスカーの腕の中、横抱きにされている。
「な…!」
何をするのかと咎める唇を、オスカーは氷色の視線だけで塞ぐ。
そのまま外に出る。
有翼の馬に乗った。
空間を越えることのできる馬、女王と守護聖にしか乗りこなせぬ馬に、ロザリアを抱いて。
「つかまってろ。
すぐにつくから。」
夜の空に飛び立つと、それきりオスカーは口を開かなかった。