ハロウィンの夜
「あきらめるんだな、ジュリアス。
悪い事は言わん。」
いつも無表情のクラヴィス神父が、珍しくうろたえている。
「相手が悪い。」
ちらりと視線で指し示す先には、にっこりと微笑する美青年。
まるで女のように繊細な美貌。
だがクラヴィス神父がうろたえるのは、別に青年が美貌であるからではない。
水色の髪をした青年の周りには、ぞっとするほどの冷気があった。
優しげな微笑が漏れる度、その冷気は濃くなって、いまやこの部屋の温度は零下に近い。
「それがよろしいでしょうね。」
腕に持つのは大きな鎌。
軽々とそれを振るって見せた。
びゅん・・・。
風がうなり、空気の温度がさらに下がる。
「ロザリアは、わたくしの花嫁にいたします。
あなたには、とてもお気の毒だとは思いますけれど。」
またにっこり。
<クラヴィスめ~。>
金色の髪をした伯爵ジュリアスは、忌々しげに幼馴染であるクラヴィスを睨みつけた。
いささかバツが悪そうに顔を背ける彼の、長い黒髪を引っつかんでその耳元に小声で怒鳴る。
「おまえのせいだ。
なんとかしろ!」
ロザリアとは、金色の髪のジュリアスが、この春ようやく手にいれた婚約者であった。
あまたのライバルを蹴落としてのことで、その過程は恋愛に不器用なジュリアスにとって、けして楽なものではなかったのだ。
じりじりと嫉妬に焦がれた夜と昼。
赤毛の子爵には特に苦労させられた。
「わたくしも・・・・。
わたくしもジュリアス様をお慕いしておりました。」
その言葉が、あの綺麗な声で音になった時、ジュリアスは迷うことなく彼女の身をさらった。
即座に彼女を自邸に招き入れ、そして両親に宣言したのだ。
「私の妻になる人です。」
そして直に結婚する。
式の準備も整っていた。
それなのに。
それなのに、このバカな幼馴染ときたら!!
だいたい神父のくせに、こいつは昔から変わり者だった。
妙な水晶球を持ち出しては、あやしげな召喚とやらの研究をしていたものだ。
「おまえは神につかえるものだろうに。
そのような禍禍しいことを。」
ジュリアスが眉をひそめても、いっかなやめる気配はなかった。
失敗続きであったため、それ以降彼もなにも言わなくなっていたところへこれだ。
クラヴィスが呼び出したもの、それがジュリアスの不幸の始りであった。
あろうことか、こいつは死神を召喚してくれたのだ!
そしてその先には、さらに最悪の事態が待っていた。
水色の髪の死神が、あのロザリアを見染めてしまったのだ。
今夜は月が美しい。
バルコニーで月を見上げるロザリアの白い横顔に、この死神がすっかりやられてしまう。
「美しい女性ですね。」
うっとりと彼がつぶやいた時、クラヴィスとジュリアスの顔色は海よりも青くなった。
「わたくしの花嫁にふさわしい。」
「冗談ではないぞ。」
立ち上がってその言葉を遮るジュリアスに、水色の髪をした死神が首を傾げて笑う。
「そう、冗談を申し上げたつもりはございませんよ?」
鈍く輝く鎌の歯を、白く細い指でそっとなぞり、彼は続けた。
「わたくしはどうも理想が高いのでしょうか。
周りのものが用意してくれる縁談に、どうしてもその気になれませんでした。
ですが・・・・、なんということでしょうね。
人の世で、花嫁をみつけることになろうとは。」
満足げに微笑するその顔はとても優しげで美しく、そしてぞっとするほど恐ろしかった。
「どうにかしろ!おまえのせいだ。」
クラヴィスの喉元をしめあげんばかりの勢いで、ジュリアスはさらに詰め寄った。
「召喚したのなら、返す方法も知っていよう。
さっさと返してしまえ!。」
困りきった表情で首を振るクラヴィスに、ジュリアスの声がひきつれる。
「ま・・・さか!」
こくりと頷くできそこないの幼馴染を殴り倒さなかったのは、ジュリアスの育ちの良さであったろう。
どうするのだ、どうすれば良い?
忙しく考えをめぐらすジュリアスの前で、窓の傍に立ち、そこからうっとりとロザリアの姿を見つめ続ける、水色の死神の姿があった。