金と銀(13)

「カイン、参りました。」
ドア越しに声をかけた。
「開いている。」
返事があって、そこでカインは一呼吸おいた。
覚悟を決めてドアを開く。
暖炉の傍、返事の主は背を向けて、過ぎるほど静かにカインを迎えた。

「言訳を聞こう。」
無表情な声だった。
暖炉の炎は不安定に揺らぎ、暗く明るくレヴィアスの横顔を照らす。
この惑星では、日が落ちるとたちまち気温はぐんと下がる。
昼間の温かさが嘘のようだ。
外気は急激にその温度を下げていて、普通の人間であれば暖房なしではしのげまい。
カインは、既に人の身体を失った身である。
寒かろうが暑かろうが、全くこたえるものではない。
だがこの時、身が凍るような冷気を、確かに覚えていた。
背筋には冷たい汗が伝う。
「どうした?
聞くと言っている。
我に聞かせよ。
おまえらしくもない、下卑たマネをしたことだ。」
さらなる冷気がカインを襲う。
ぞっとした。
「それでは言いやすいようにしてやろう。
まず聞く。
今まで何処に行っていた?」
音もたてず、レヴィアスが立ちあがった。
ゆっくりとカインに歩み寄る。
そして繰り返した。
「何処へ行っていた?」

ぱちんと、乾いた薪がはぜた。
炎の勢いは相変わらず不安定で、激しくあるいは穏やかに、揺らぎ続ける。
その炎の揺らぎを受けて、レヴィアスの金色の瞳が光る。
怒っておいでだ。
今更ながら、カインは思いしった。
無理もない。
誇り高いレヴィアスにとって、己が心をのぞかれるなど許せるものではないはずだ。
それをあえてしたのは、他ならぬ自分自身である。
もう1度覚悟を決める。
「あの少女の、アンジェリークのもとへ、行ってまいりました。」
しっかりと金と緑の異眼をみつめて、そう言った。
「・・・・、ほう。」
ややあって、レヴィアスの唇が薄い笑いの形をとった。
「言訳はせぬか。
さすが・・と褒めてやりたいが、そうもゆかぬ。
そのようなこと、我がいつ命じた?
おまえは我の手足となり、我の命じた事だけを行えば良い。
そのために蘇生させたのだ。
勝手な真似を・・・、させるためではない。」
相変わらずたんたんとした口調であった。
それがかえって、レヴィアスの怒りをカインに感じさせる。
ごくんと息をひとつ飲んで、カインはさらに頭をぐっと持ち上げた。
背筋を伸ばす。
「承知しております。」
知っていてなお、自分はそうしたのだと言いたいカインであった。
目の前にある、冷たい表情をしたレヴィアスの、執着の理由をどうしても知りたいと思ったから。
そしてそのわけを知る事が、レヴィアスを救う手段になるような気がしたから。
だから自分はあえて主人の意に逆らったのだ。
無論、レヴィアスの怒りは折込済みであった。
きつい叱責を受ける事も。
「彼女に会ってみたかったのです。
そうすればわかると思いましたから。」
「わかる・・・?」
レヴィアスの形の良い眉が上がる。
「何が・・わかるというのか?」
「あなたが彼女を殺せないわけが。
レヴィアス様、あなたが本当に求めておいでになるものが・・です。」

「本当に求めるもの?
我の?」
くっと喉を鳴らして、レヴィアスが乾いた笑い声をたてた。
「面白い。
聞こう。
いったい我は何を求めている?」
金色の瞳に笑いはない。
いよいよ増した強い光は切れるような冷気と共にあり、レヴィアスの激しさに慣れている筈のカインでさえ、多少ならずたじろぐようだ。
だがここでひるめない。
「お気づきのはずでしょう、もう。
ご自身が1番に。」
低い声で応えた。
「まわりくどい言い方をするな。
いったい我が何に気付いていると?
さかしらな事を!」
レヴィアスの金の瞳がひときわ強い輝きを放つ。
次の瞬間、カインの身体は宙に浮いていた。
何かに首を掴まれたようにして。
ぐっとこみ上げる息苦しさに、カインの顔が歪んだ。
「お気の・・・・・、済むように・・・・・、なさいませ。」
苦しい息の間から、絶え絶えの声。
だが譲らない。
「あなたによって・・・・・、生かされている我が身です。
息の根止められようと・・・・・、お恨みは・・・、いたしません。」
ふいに息苦しさが遠のいた。
カインの身体は、どさりと床に投げ出される。
ぜえぜえと喉を鳴らすカインの頭上から、じっと見下ろす視線。
「愛しておいでなのでしょう?」
まだ苦しい息の下から問いかける。
答えはない。
「私をはじめ今ここに在る仲間は、すべてレヴィアス様がお造りになった幻です。
本来は在り得ぬ者。
自然の理に逆らう在り様をした者たちです。
お力にはなりましょう。
それがあなたのお望みなら。
けれどその先は?
あなたがその先お望みになるものは、幻とではけっして作れぬもの。
もう、とうに気付いておいでのはずですよ?」
顔を上げたカインの暗い赤の視線の先に、動揺を隠しきれぬ金と緑の異眼があった。