金と銀(15)
大きくて、煌々と照り輝いて。
その前の空間に浮かぶのは、彼。
漆黒の髪を風になぶらせて、金と緑の異眼を不敵に輝かせてはいるけれど。
それでもすぐにわかった。
彼だ。
そして知った。
来るべき時が来たのだと。
もう、曖昧な甘い関係は、金輪際望めのだと。
「アリオス・・・。」
それでも唇が発するのは、彼女のよく知る男の名。
「アリオス・・・・。」
ほら、やはり。
「そのような名、忘れることだ。」
金色の瞳が濡れたように輝いた。
残忍な微笑をのせて。
「おまえの知るアリオスは、もう何処にもいない。
我は・・・皇帝。
この宇宙を統べる、絶対の存在。
我の名は・・・・・・・。」
そこでわずかに彼は間をおいた。
悲痛な表情をうかべた翡翠の瞳。
眼を閉じて、その残像を振り払う。
そして続けた。
「覚えておく事だ。
我の名は、レヴィアス・ラグナ・アルヴィース。
正統なる者。
おまえの・・・・、敵となる者の名だ。」
一息に言って、倣岸と見下ろした。
揺らめく翡翠の瞳。
大きく見開かれている。
もう後戻りはできない。
自ら正体を明かした上は、敵同士としての関係しか残されてはいない。
「我が憎いだろう?
だまされ続けた気分はどうだ?
憎ければ討て。
相手をしてやろう。
さぁ!」
意識して挑発的な言葉を吐いた。
それは彼女にというよりも、自分に言い聞かせる為の言葉。
ばさり・・とマントを翻したレヴィアスの身体から、薄紫のオーラが上り始める。
魔導を発動する為に。
ああ、やっぱり・・・・。
予感は正しかった。
当たって欲しくない予感だけは、どうしてだかいつも当たる。
レヴィアスの発した魔導、紫の閃光が間近に迫る中、アンジェリークはそんなことをぼんやりと考えていた。
戻ってきた時、アリオスが戻ってきた時から、彼の様子は変だった。
女王のロット、「蒼のエリシア」を直す為、どうしても洞窟の奥に入らねばならないのだと聞かされて、彼女と仲間はそこへ入った。
その間、普段なら気軽に冗談口を叩くアリオスが、やけに無口だったのだ。
おかしいな。
すぐに彼女は感じた。
だが口にして、彼に問う事はしなかった。
ようやく洞窟の奥までたどり着いた時、アリオスはいなくなっていた。
胸騒ぎがした。
もうアリオスには会えない。
そんな予感がした。
どうしようもなく不安で怖くて。
そして今、その予感は正しかった事を知る。
今彼女の目の前にあるのは、アリオスではない。
銀色の髪、緑の瞳の、あの懐かしい青年ではない。
「アリオスはもういない。」
漆黒の髪をした美貌の青年も、そう言ったではないか。
だがそれならなぜ?
なぜ彼は、あんなに辛そうな顔をするのだろう?
見間違いではない。
色の異なる瞳に浮かんだ表情は、全くもって倣岸で残忍なものだったけれど、時折ちらりと見え隠れする別の表情がある。
哀しげに、いらだたしげに、そしてとても辛そうで。
「レヴィアス・・・・・・。」
初めて口にした。
アリオスを飲みこんでしまった青年の名を。
消えたんじゃない。
アリオスは消えてなんかいない。
彼はこの青年の一部。
彼はまだ生きている。
けれどもう、表に出てくる事はかなわない。
今はもう、敵だから。
レヴィアスと彼女とは、敵同士だとはっきりしてしまったから。
気付かぬうちに、涙がこぼれていた。
見上げるレヴィアスの姿が、歪んで揺れた。
「ばか!
なにやってんだ!
ったくトロくせー。」
いきなり引き寄せられて、アンジェリークの意識はようやく現実に戻った。
彼女がつい先ほどまでいた足下に、大きな窪みが穿たれている。
ぞっとした。
本気だ。
レヴィアスは本気で、彼女を殺そうとしたのだ。
<だめ!
まだ殺されるわけにはいかない。>
彼女の中にある女王のサクリアが、死んではならぬと告げていた。
彼女にはなすべき義務が残っている。
恋に呆けて良い立場にはない。
「焼け焦げになりたかねぇだろ?
いいからおめぇはすっこんでろ。」
乱暴にそう言った鋼の守護聖ゼフェルは、彼女を奥へおしやろうとする。
その手を抑えて、彼女は首を振った。
「大丈夫です。
もう・・・・。
ぼんやりなんかしませんから。
大丈夫。」
昂然と頭をもたげ、閃光を放った敵の首領を睨みつけた。
敵なのだ・・・と、自分に言い聞かせながら。