アナログなロマンス(5)

あれ以来、ゼフェルの機嫌は大層良い。

その良さ加減ときたら、あのこうるさい光の守護聖ジュリアスが

「あの者はいったいどうしたというのだ?
真面目に職務に励んでいるようで、まことに結構なことではあるのだが…。」

と、首を傾げるほどである。

当の本人ゼフェルはといえば、そんな他人の思いなど、まるで気にしてはいなかった。
今の彼にとって最重要の問題は、「次のデートで決める!」の一点につきるのだ。

あの日、ロザリアは答えてくれた。

「わたくしも、ゼフェル様が好きですわ。」

今思い出しても思わずにやけてしまう、かわいらしい声で。

だがあの時、あまりの思いがけない急展開に、ゼフェルは固まってしまった。
成果は、頬へのキスだけである。

「この甲斐性なしやろーがっ。」

正気に戻った後で、ゼフェルはどれほど自分を罵ったことか。

けれどその後悔も今日までのこと。

今日の夕食を一緒にと、約束してある。

夕食。
夕食といえば夜。
夜だ。

あの日あの夜のリベンジ戦である。
用意万端。
その…いろいろな方面において、用意は万端整えてあった。

後はここ私邸で待つだけ。

ゼフェルは先ほどから少しも進まない作業を続けながら、三分おきに時計を睨みつけている。

「遅ぇ!」

睨んだからといって、時間が早く進むわけもないのだが、それでも睨んでしまう。
今のゼフェルにとって、ロザリアとの間を邪魔立てするものは、なんだって敵なのだ。

 リンゴ~ン。

時計が六時を指すちょっと前に、玄関の呼び鈴がなった。

「来たっ!」

飛び出したい衝動にかられたが、ここはぐっと我慢する。
待ってましたとばかりに飛び出したんじゃ、なめられるというものだ。
まるで気づかぬふりをしていたら、執事代わりのロボットが、ロザリアの来訪を知らせて来た。

「リビングに通しとけ。」

すっかり用意はできている。できているどころか、待ちかねていたというのに、ゼフェルはここでもやせ我慢をしてみせる。

〈ここが肝心だかんな。
男のよゆーってやつだ。〉

「おう、よく来たな。」

できるだけ鷹揚な声を意識した。

が、次の瞬間。

「お招きありがとうございます。
ゼフェル様。」

にっこり笑うロザリアの綺麗な蒼い瞳。

〈か…かわいいぜっ。〉

あっけなく、撃沈されてしまう。

「何かお好きなものをと思ったのですけれど、思いつかなくて…。」

そう言いながら、ロザリアはゼフェルに近づいてくる。

ふわり…と、なにかすべらかな感触が襟元に。

「ゼフェル様、バイクでよくお出かけになりますでしょ?
その時使っていただけたらと思って…。」

白い絹のマフラー。
ゼフェルの名前が、飾り文字で刺繍されている。

「おう、サンキュ。」

ようやくやっとの思いで、それだけを返したゼフェルに、ロザリアは満足そうに微笑んでさらに続ける。

「わたくし、これからはできるだけ家事一切を、自分でしようと思っていますの。
いつかゼフェル様と下界に下りることになった時、小さな町の工場で、奥さんをしなければなりませんのでしょう?」

 は…?

 一瞬彼女がなにを言っているのか理解できないゼフェルだったが、次の瞬間、ようやく気づく。

「あのなあ、ロザリア。
おめーみてーなお嬢に、家事とかそーゆーのさせるほど、俺は甲斐性なしじゃあねー…。」

と、語気を強くして主張しているゼフェルに見向きもせず、ロザリアはうっとりと視線を宙に遊ばせている。

「朝早く、まだ明け方ですわね。
朝食を済ませたゼフェル様を見送りますの。
『お弁当はお持ちになった?』とか言って。」

心中で盛大なため息をつきながら、ゼフェルは笑っていた。

とりあえず、ロザリアの騎士は立派なお城ではなく、小さな惑星の小さな工場に住んでいるらしいとわかったから。
ゼフェルにしてみたら、どうしてそれでうっとりできるのか理解しがたい庶民的な光景を想像しながら、騎士と姫君の恋物語を思うのと同じ表情をするロザリアを、心からかわいいと思う。

だが同時に、んなことで今日こそはほだされないと誓う。

いつか、そう遠くない未来に。

小さな惑星の小さな町で。

そこにはゼフェルの経営する工場があって。

町でも評判の、美人の奥さんがいる。

あるべき未来のその第一歩、今夜がそれだ。

「今日こそぜってー決めてやる。」

赤い目に不退転の決意が閃かせ、両手の指をぐぐぐと握り締めるゼフェルであった。