Eine Rückkehr ~帰郷~ (2)
羽飾りがあると良い。
ハンガーにかけた新調の衣装を眺めて、オリヴィエは思いつく。
「そうだねぇ、毛足の長いものの方が良いね。
うん。
その方がきっと映える。」
真珠色の光沢をもった、てろりとした絹の生地。
そのままでも十分美しかったが、オリヴィエには少し清らか過ぎた。
毒が欲しい。
下品にならないギリギリの毒が。
クローゼットの脇、2番目の引き出しをあける。
あちこちの惑星から取り寄せた素材、リボン、貝殻、石。
細々としたその中に、羽飾りのボックスが収まっていた。
「これ…かな。」
いくつか、適当な羽を取り出して当ててみた後で、どうやら彼のイメージに合うものを見つける。
鮮やかな赤、それに緑がかった黒を取り上げた。
早速縫製にまわそう。
呼び鈴を鳴らす。
間をおかずやって来たメイドは慣れたもので、オリヴィエの腕から衣装一式を受け取ると、静かに部屋を出て行った。
数日中には出来上がるだろう。
取り残された素材いろいろ、それを元の場所へ片付けようとして。
青い羽に気づいた。
艶のある深い青の羽。
亜熱帯の惑星に棲む尾長鳥の尾で、細く長い曲線を描いてしなだれる様が優美だった。
優しく、同時にどこか硬質のその様が、オリヴィエに今日の午後見かけた光景を思い出させた。
明るい陽射しの中、寄り添うように歩く男女。
豪奢な金色の髪をした光の守護聖を、見上げるようにして少女は微笑んでいた。
蒼い瞳には控えめな興奮が確かにあって、ほんのり上気した頬がバラ色に染まっている。
その頬に手を伸ばした光の守護聖がなにやら囁くと、バラの色はさらに濃さを増す。
楽しげに笑うあの男は誰だと、オリヴィエは思った。
眦の切れ上がった瑠璃色の瞳が、悪戯げに笑っている。
オリヴィエの知る、光の守護聖ジュリアスではなかった。
あの男に、あんな表情をさせるとは…。
あの娘もやるものではないか。
「まぁ、どうでも良いことだけどね。」
ふん…と鼻先で小さく笑って、オリヴィエは思考を現在の時間へ戻す。
青い羽が、目の前にあった。
高雅な凛とした色の、しなやかな曲線を描く。
あの娘。
首星の名門貴族の出身だという。
次期女王候補として、この地に召還されて三月ばかり。
気位の高い、きつい蒼の瞳をした少女に、オリヴィエはさして興味をもたなかったものだ。
あんな顔もするのか…。
ちらりと垣間見た、愛らしい表情が浮かぶ。
思いついて、もう一度呼び鈴を鳴らした。
先刻同様、すぐにメイドがやってくる。
「お呼びでしょうか?」
軽く頷いて、オリヴィエは青い羽を差し出した。
「帽子を作りたいんだ。
担当を呼んでくれるかい?」
「承知いたしました。」
気まぐれな注文はいつものことで、メイドの方も心得たものである。
音もたてず扉を閉めて彼女が出てゆくと、オリヴィエは小ぶりのライティングデスクに向かう。
白い紙にデザイン画を起こしながら、自分の中にある不可解な感情に苦笑している。
もう一度あの顔を見てみたい。
間近で。
そして今度は、自分に向けられたその顔を。
たった一度、ほんのわずか垣間見た微笑にこだわる理由が何なのか。
それを彼は考えない。
ただいつもの気まぐれ、ほんの好奇心だろうけれど、それも悪くないかなどと思っている。
変わりばえのしない毎日に、少なくともしばらくは退屈しないですみそうだったから。
青い羽飾りの帽子。
久しぶりに浮き立つ気分が、快かった。