Eine Rückkehr ~帰郷~ (3)

白を基調に金と青を配した執務室は、主である光の守護聖ジュリアスの存在で完全な調和を作り出す。
聖地にある、九人の守護聖の長。
豪奢な金の髪をした貴公子は、青と金で縁取った白絹のトガを自然にまとい、控えめなノックの音に瑠璃の視線を上げた。

「開いている。」

扉が開き、そこに期待どおりの姿を見つけると、白く長い指を執務机の上で組んで、彼は微笑んだ。

「順調らしいな。
何よりのことだ。」

いつもどおり、試験の経過について口にする。
けれど瑠璃色の瞳は正直に、そんなことはもはやどうでも良い、少女に会えたことが何より嬉しいのだと、雄弁に語っていた。

少女、蒼い宝石の瞳をしたロザリアは、ジュリアスの視線にぶつかって、恥ずかしげに視線を落とす。

「ありがとうございます。」

頬を染めて、小鳥のような細く高い声で答える少女に、ジュリアスの微笑はさらに深くなる。

「礼を言う必要はない。
おまえが努力した、その当然の結果だ。」

遅い午後、盛りを過ぎた陽が、少女をやわらかく照らし出す。

「いいえ、やはりお礼を申し上げますわ。
迷うことばかりのわたくしを導いてくださったのは、ジュリアス様。」

頬の紅さはそのままであったけれど、凛とした視線をロザリアは上げた。
真正面からジュリアスを見つめ、そして綺麗に微笑した。

「どうぞそのままご覧になっていらして。
わたくし、きっとご期待に沿いますわ。」

ジュリアスの美麗な眉が曇る。
期待に沿う。
ロザリアの言葉が、彼に現実を思い出させたから。
少女は次期女王になるだろう。
天性の資質を持って生まれた彼女なら、それは至極当然のこと。
けれどそれを心から喜べぬ自分に、ジュリアスは苛立っていた。

おそらくは歴代の女王にけしてひけはとるまい新女王に、心からの忠誠を誓うのは彼の何より望むところではなかったか。
名君に仕え、世界の秩序と平穏を守る。
それこそが幼くして守護聖となった、彼の誇りとするところ。
それなのに彼の感情は、抗う。
稀代の女王など要らぬ。
そのままで良いと。

きつい蒼の瞳の奥に揺れる、少女じみた頼りなさ。
誰も知らないその顔は、女王即位とともに、生涯封印することになる。

させたくはなかった。
我が傍らで、そのまま、素顔のまま、心穏やかに生きれば良い。
螺旋になって上りくるその言葉を、最近のジュリアスはかなりの努力で胸の内へ押し返していた。

愚かな…。

首座の自覚が、己の感情をねじ伏せる。

「ジュリアス様?」

いぶかしげに問いかける声が間近で響き、はっと意識を戻した。

「わたくし…、お気に障ることを?」

不安げに彼を見つめる蒼い瞳にぶつかった。
収めた螺旋の感情が、また立ち上りかける。

「いや…。
おまえのことではない。」

努めて平静を装った声は、冷たく突き放して響いた。
ロザリアの表情に、驚きと恐れが僅かに映り、けれど彼女は即座に、それを無表情の仮面の下に沈める。

「今日はお暇いたしますわ。
ジュリアス様、ごきげんよう。」

完璧な貴婦人の礼をひとつ。
ジュリアスが軽く頷くと、少女は静かに退出した。

ほぅ…。

重いため息をつく。
少女の残した花の香が、ジュリアスの胸を切なくさせた。