Eine Rückkehr ~帰郷~ (4)

「ねぇ、ロザリア~。
で、さ、どうなってるの?」

夜遅く、眠れないからとロザリアの部屋へやって来たアンジェリークが、テーブルの上のクッキーをつまみながら、切り出した。
そろそろ休みたい時間であったから、迷惑千万な訪問である。
ロザリアは眉を寄せ、不機嫌な声で返した。

「どうなってるって、何がですの?」

「も~う。
決まってるじゃない。
ジュリアス様よ、ジュリアス様。」

好奇心にらんらんと輝く緑の瞳に、ロザリアは盛大にため息をついてみせる。
これで自分と次期女王を争う候補の一人だというのだから、あきれてしまう。

「守護聖様ですのよ?
あんたが何を期待しているのか知らないけど、女王候補と守護聖、それだけですわ。」

取り付くしまもない冷たい返事にも、こたえた様子はない。
二枚目のクッキーに手を伸ばして続ける。

「ふんだ。
そんなこと言ったってだめなんだから。
見てたらわかるよ。
ジュリアス様、ロザリアにラブラブだもん。」

ラ…ブラブ…?

まばゆいばかりに美しい光の守護聖に、ラブラブなどと…。
なんと俗っぽい言葉を使ったものか。
こほん…と咳払いをひとつして、ロザリアは声を改めた。

「アンジェリーク、もうこの辺であんたのつまらないおしゃべりは終わりにしてくださらない?
わたくし明日がありますの。
そろそろ休みたいのだけれど。」

今度はさすがに本気だとわかったらしい。

「ロザリアのけち。
教えてくれたって良いのに。」

わけのわからぬ憎まれ口を叩いたけれど、ともかく自分の部屋へ戻ってくれた。

「まったく、なんて子かしら。」

紅茶のカップを片付けて、明日の準備をロザリアは始める。
王立研究院からの課題は、既に出来上がっていた。
明日はこれを提出すれば良いだけである。

その後、ジュリアスの執務室へ行こうと思っていた。
特別これといった用はないのだが、あそこへ行けば気持ちが穏やかになったから。
厳格、謹厳と、他人が光の守護聖を評する言葉を知らないわけではなかったが、ロザリアにはその性質さえ心地よく思えた。
禁欲的に義務を果たす彼の姿は、名門貴族の在り方そのもので、ロザリアにはとても近しいものである。
だから無条件の尊敬と、節度をもった親愛を、彼女はジュリアスに抱いた。
おそらく彼の方でも、似た感情を持ったのだろう。
この頃では他愛のないお喋りにも、付き合ってくれるようになっていた。

それなのに!

あの根っからの庶民派女王候補のせいで、行きにくくなったではないか。
ラブラブ…!
そんな下世話な感情を、どうして彼がもつだろう。
あの崇高で禁欲的な貴公子が…。
そこまで考えて、ロザリアは顔を赤らめた。

もし、もしも、アンジェリークの言うとおりなら…。
金色の長いまつげの下、鮮やかな瑠璃色の瞳がせつなげに揺れて

「おまえを愛している。
そう告げることを、許してもらえるだろうか?」

甘い、よく響く声をうっとりと思い描く。
そこで、はっと我に返る。

「な…!
なにを考えているの、わたくしは。」

誰が見ているわけでもないのに、辺りを見回してしまう。

「あ、あの子のせいですわ。
おかしなことを言うから。」

早口でそう言いつつうろたえるロザリアは、アンジェリークと同じ、まだ17歳の少女の顔をしていた。