Forever&Ever(1)

 

「まぁ・・・・。」
開きかけた口元を、細くて白い指が優雅に覆い隠した。
見開かれた蒼い瞳。
まっすぐに僕を見つめて、そして言う。
「驚いた。
見違えてしまったわ。」
心が躍り出すようだ。
欲しい言葉を得られた喜びで。
身体の内で、声が弾ける。
<そうでしょう?
そのはずですよ。
だって僕がそう望んだのですから。
早く大人にしてください。
あの人の目に映る僕の姿。
男として、映りますように。
どうか・・・。>
けれど実際に音となった僕の声は、違う事を言う。
「お久しぶりです、ロザリア様。
お元気そうで何よりです。」
国王として恥ずかしくない挨拶を。
少し低めの声、ゆったりとした口調を意識して。

初めて出会った時、僕は13の子どもだった。
次期女王候補の教官として、聖地に召喚された時。
「あなたがティムカ?
しばらくの間、どうぞよろしくね。」
青を基調にしたドレスは、すらりとした肢体にぴったりと寄り添っていた。
手にした杓杖から、その人が女王補佐官だと察せられる。
「はい。
できるだけのことはいたします。
若輩ものではございますが、どうぞよろしくお願いいたします。」
僕の故郷は、全宇宙を統べる女王のお膝元、この聖地のある主星とは比ぶべくもない小さな惑星ではある。
それでも未来の国王として、幼い頃から徹底的にしこまれた礼儀作法であったのに、その時の僕はまるでそれを忘れてしまっていた。
上ずった声で、精一杯の虚勢を張るのがやっと。
舌はもつれ、そして自分のみっともなさに赤面さえしていた。
こんな僕を見たら、故郷のみんなはきっとがっかりするだろうな。
そう思うと、泣きたい気分だった。
すると、上座の空気がふわんと動いた。
空のままの玉座の隣りから、その人が僕の傍に降りてきて。
そしてうつむいたままの僕をのぞき込む。
「わたくしにもあったのよ。
前任の補佐官に初めてお目にかかった日。
とても緊張したわ。
それは昨日の事のようなのに。
不思議ね。
今はわたくしが、あの時の補佐官と同じ立場にいる。」
その声があまり寂しげなので、僕は思わず顔を上げた。
蒼い切れ長の瞳が、僕を見つめている。
眦に向う濃く長いまつげが、白いほほに影を落として、それがその人を、なんだか泣き出しそうな表情に見せていた。
<寂しいのですか?>
あの頃の僕に、そう聞くことはできなかった。
どうして良いかわからずに、ただおろおろとその人を見つめ返すしかできない。
「わたくしはロザリア。
ロザリアと、呼んでね。
そしてあなたがここにいる間、仲良くしてもらえると嬉しいわ。」
唇がやわらかい曲線を描き、蒼い瞳が優しげに微笑して。
僕の頬にもう1度、さっきとは比べようもないほどの血が上る。
「は・・い。」
たえだえの応えを搾り出す。
本当はにっこりと微笑して、はっきりと応えたかったのに。
「光栄です、ロザリア様。」
その人の手にくちづける。
たったそれだけのことができなくて、その夜僕は眠れなかった。
あの人の慰めるような微笑が悔しくて。
そしてなによりも、それを向けられた僕自身が、とても情けなかったから。

「滅多にない経験だ。
しっかりと見てくると良い。
そしてできたらおまえにも、すばらしい恋の相手がみつかると良いな。」
聖地に向う僕に、父が言った言葉。
<未来の王妃に相応しい、素敵な女性を見つけて来い。>
本当のところ、父はそう言いたかったんだろうと思う。
周りが用意した娘を妻にするよりも、できるなら僕が好きになった女性を迎えさせてやりたい。
父がよくそう漏らしていたと、僕は母から聞いていた。
王太子の身に、そんな自由が許されるのも後わずか。
父の病状は、その頃もうはかばかしくなかったから、いずれ近いうちに僕の即位が決まるだろうことは目に見えていた。
その時、もし僕に決まった女性がいなければ、僕の意思とは関わりなく、周りが王妃を決めてしまう。
<そんなことにはなるなよ。>
僕を見送る父の目が、言っていた。
けれど、だめだった。
教官の仕事をまっとうする事に夢中だった僕には、そんな余裕なんかありはしない。
ただただ忙しく毎日は過ぎて・・・。
いや、違うな。
それは言訳だ。
いたんだ、本当は。
望んで僕のものになるのなら、それがどんなわがままでも、通したいと思った人が。
美しい年上の人。
あの人がほんの少しでも僕を好きでいてくれるなら、僕は迷うことなく即座に求婚して、そして故郷に連れ帰った事だろう。
そうできたら、どんなに誇らしい思いだったろうか。
「この方が僕の妻になる女性です。」
父の前でそう言えたら。
が、現実は・・・。
言えるわけもない。
あの人は、僕を男としてさえ見ていなかったんだから。
「美味しいお菓子があるのよ。
わたくしの部屋へいらっしゃい。
後でね。」
あの人は僕を見かけると、そんな風に言って微笑した。
それはまぶしいほどに綺麗な笑顔だったけれど、僕はいつもがっかりしたものだ。
お菓子があるから部屋へ来い。
僕を一人前の男として見ていたら、そんな誘いの言葉はかけなかっただろう。
僕はがっかりして、けれど急いでその感情を隠す。
「ええ、ありがとうございます。
後で伺いますよ。
きっと。」
あの人の期待通り、無邪気に喜んだフリを装って。