Forever&Ever(17)

 

逃げるようにティムカと別れたものの、そのまま執務に戻る気にはどうにもならないロザリアだった。
執務室へ続く廊下の途中で立ち止まり、重いため息をつく。
どうしよう。
自分のまいた種とはいうものの、正直彼女には荷が勝ち過ぎていた。
男2人を上手にさばけるほど、彼女は恋に慣れていない。
真正直に向かい合い、悩み、そして最後は自分を責める。
自分が情けないのだ。
その場のなりゆき、それに情、そんなものに流されてしまった。
それは責任のある行動とは言えない。
なんと情けない事をしでかしたものかと。

「どうかなさいましたか?」
背後から覚えのある優しい声。
リュミエールか。
いつのまに近づいたのだろう。
まるで気配がしなかった。
「浮かない顔をしておいでですね。
なにか、あったのでしょうか?」
幾枚もの薄い布を重ねた水色のグラデーション。
ほっそりと優美な長身に、それはとてもよく似合っている。
ロザリアは彼の胸の辺りに視線をあてたまま、首を振った。
「いいえ、なにも・・・。」
ふいに顎に強い力が加えられ、ロザリアの視界に水色の瞳が飛びこんできた。
「なにもない・・・。
そんなお顔には見えませんよ?
わたくしには、とてもね。」
細い指が、ロザリアの顎を捕らえていた。
それは思いの他強い力で、彼女の全身の自由を奪ってしまったようだった。
瞬きをすることさえできない。
「リュミエール・・・。」
やっとの思いで、そう口にする。
「はい、なんでしょう?」
にっこりと美しい微笑、そしてそれに似つかわしい優しい声が、彼女に応える。
「話してくださいますか?
わたくしに・・・・。」
ロザリアは、抗う事ができなかった。
まぶたを閉じて頷いたロザリアに、
「そう・・・。
それで結構です。」
満足げに応えたリュミエールは、ロザリアの肩を抱き、彼女を自分の執務室へと案内したのだった。

「お気を楽になさってください。
今、お茶を淹れて差上げましょう。
お話はそれからのこと。
ね?」
執務室に入ったリュミエールは、沈みこむロザリアとは対照的に、なぜだかとても弾んで見えた。
いそいそとお茶の支度をする。
「楽しそうだわ、リュミエール。
どうかなさって?」
不審に思ったロザリアが、ひととき自分の憂さを忘れて問いかけた。
「え?」
手を止めたリュミエールが顔を上げる。
ふいをつかれたように一瞬ロザリアをじっとみつめて、そして口元をほころばせる。
「おや、ばれてしまいましたね。」
再び彼は手際よくお茶の準備をして、白い磁器のティーセットののったトレイを彼女の前のテーブルに運んだ。
「ミルクティーにいたしましょう。
気持ちが落ち着きますよ。」
優雅な手つきでティーポットをさばきながら、リュミエールは本当に楽しそうだ。
「ばれた・・って、リュミエール?」
ロザリアは、微笑を絶やさぬリュミエールの表情をうかがっている。
「どういうことですの?」
「そのとおりの意味ですよ。
あなたとこうして御一緒できる。
そのことが、わたくしにとってとても楽しい事なのです。
いいえ、幸せだと言ってもいいかもしれませんね。」
カップにお茶を注ぎながら、リュミエールはそれだけのことをさらりと口にした。
視線はティーカップに落としたまま。
長いまつげに隠されて、彼の表情はロザリアには見えない。
「ですが・・・。
あなたのお気持ちを暗くしているそのわけを・・・・、知りたいと思うのは本当です。
それをうかがって、あなたのお気持ちを少しでも晴れやかにして差上げたい。
そう思う気持ちに嘘はありません。
ですから、ここへお連れした。
本当ですよ、ロザリア。」
香りの良い湯気の上がるティーカップを差し出して、ようやくリュミエールは彼女に視線を戻した。
「ミルクをどうぞ。
少し濃い目ですからね、たっぷり入れても大丈夫ですよ。」
ロザリアはどう反応して良いか、まったくわからないでいる。
これではまるで、日常のティータイムのようなリュミエールの言葉。
だが突然、返事に窮する言葉がかけられるのだ。
気が抜けない。
いったい彼はどういうつもりなのだろう?
無言でティーカップに口をつけるロザリアに、リュミエールの言葉が続いた。
「迷っておいでなのでしょう?」
びくりとロザリアの肩が震える。
「ああ、よろしいのですよ。
ロザリア、正直におっしゃってください。
わたくしはかつてオリヴィエと、あなたの愛を競いました。
そしてあなたはオリヴィエをお選びになった。
けれど・・・・、ここへきて、あなたはティムカにも惹かれた。
そして御自分のお気持ちを決めかねている。
そういうことなのでしょう?」
まさに図星だ。
言葉を飾らずに言えば、そのとおり。
2人の男にそれぞれ惹かれ、そしてそのどちらにも決めかねている。
だがロザリアはそれを恥じている。
リュミエールにそれを指摘されて、彼女は唇をかんでうつむいた。
「情けないことだと・・・。
情けないことだと思っていますわ。
こんなだらしのないこと、わたくし、自分が許せませんの。
ふしだらな・・・、本当にふしだらな女のする事ですわ!」
くす・・・と、小さな笑いが漏れた。
え?
ロザリアが顔を上げると、艶やかに微笑するリュミエールが彼女を見つめている。
「リュミエール?」
「ああ、だからわたくしは、あなたをあきらめきれないのですよ。
本当にいつまでも初々しい。
咲き初めた薔薇の蕾のようですね。」
言葉をなくしたロザリアに、リュミエールは平然として続けた。
「そんなこと、あなたがお気になさることではありませんよ。
お気になさるべきは・・・、あなたがどちらを憐れにお思いになるかということ。
それだけですから・・・・。」