Die Station ~ die zu Heaven fortsetzt~(12)
聖なる女王の力は偉大である。
統治するその宇宙、あまねく全土に秩序と安寧の日々が訪れた。
生きとし生けるもの、そのすべては生まれ、育ち、やがて安らかな死を迎える。
そして転生。
巡る生の循環は、新女王の御代となって、途絶えることなくゆったりと回り続けた。
聖殿の奥深く、幾重もの帳に覆われた玉座の間に在る女王は、そこから人の世の安らかであることのみを願い続け、その力の尽きるまで一人で生き続けるのだという。
それが女王の務め。
女王は人であってはならぬのだと、自身の孤独と引き換えに全宇宙に平穏をもたらす義務があるのだと。
だがそんな綺麗事、まともに守れるはずもない。
女王とて、元は人の子であったのだ。
長い長い時を、ただ他人の幸せのみを願って生きる。
気の遠くなるような孤独である。
耐えられる者がいたら、それはもはや慈愛などとは無縁の存在である。
だから歴代の女王には、多く秘密の恋人があった。
無論それは道義上、許されるものではない。
聖なる女王は女であってはならず、ゆえに女王を女として扱う男など、本来いてはならない不忠者であったから。
女王に恋人があったことなど、公式文書に一切残ってはいない。
けれどいたのだ。
女王の孤独をまるごと抱きかかえ、愛しいと思う男が、いつの御代にも。
当代の御代にあっても、それはあり。
燃えるような赤い髪に氷の瞳をした男、炎の守護聖オスカーが、その立場にあった。
「赤…は、似合いませんわ。」
深夜、女王の私室。
天蓋つきの白い寝台の上、横たわったままでロザリアが笑った。
「前にも言いましたわね?
赤は…。」
裸の半身をおこしたオスカーの長い指が、恋人の鼻を軽くつまんだ。
「憎らしいことを言う。
赤毛の男を前にして、ずいぶんなお嬢さんだ。」
サイドテーブルの上に置かれた青い箱。
蓋の開かれたそこには、燃えるように赤い、大粒のルビーのピアスが一組。
「わたくしに赤は強すぎるんですわ。
何度も、そう言っておりますのに。」
すねたように身をよじるロザリアの白い背を、男の声が追いかける。
「俺が…、着けてほしいんだ。
君に。」
「変な方ね。」
背を向けたまま、ロザリアがくすりと笑う。
「どうしてそうこだわるの?
赤…でなくては、なりませんの?」
「こだわる…さ。」
低い声。
不機嫌に聞こえるその声に、ロザリアはすいと肩越しに視線だけで恋人の姿をとらえる。
「どうかなさって?」
ふいと顔を背けたオスカーは、どこか少年臭く見えて、思わずロザリアは笑ってしまう。
「まあ…。
なにをすねているの?
おかしいわ。」
まだ笑い続けるロザリアに、すねていたはずの男はにやりと不敵な笑みを浮かべ、次の瞬間恋人の白い肩を押さえつける。
「余裕だな、お嬢さん。」
はらりとこぼれかかる赤い髪。
薄い薄い氷の色をした切れ長の瞳。
間近に正面から見つめられると、胸の動悸が速くなる。
洗練と野性が同居しているような切れ長の瞳。
これにロザリアは、いまだ慣れきってしまうことができない。
ふ…と息だけでオスカーは笑う。
「いいさ。
今は…な。」
唇をロザリアの頬に落とす。
「だがいつか…、いつか時が来たら。
君に贈るものがある。」
唇は耳元から首筋へそっと移る。
「いつか…。
君が俺を愛しているというのなら…。
そのときはきっと…。」
夜の闇はまだ深い。
しゅるりと密やかな衣擦れの音。
あえかな声と吐息が混じり、夜の白むまで延々と続いた。