Die Station ~ die zu Heaven fortsetzt~(15)
それは辺境から始まったのだと、クラヴィスは語った。
女王の統治するこの宇宙は、主星を中心に大きな楕円形を描く島宇宙である。
前女王は崩壊しかけた宇宙の維持に、その力を吸い取られ、それが故に前代未聞異例の速さで玉座を去ったが、その最後の尽力によって、現宇宙は平穏を取り戻し、受け継いだ現女王によって、ますます繁栄を続けている。
そのはずであった。
だがそうではないと、クラヴィスは言う。
辺境の星々に異変があると。
星の成長が、滞っているのだと。
女王が心をなくした。
それが原因である。
「どういうことです?」
掴みかからんばかりの勢いで、闇の守護聖に詰め寄る。
クラヴィスは薄く笑った。
「それをおまえが聞くのか?」
しばしの沈黙があった。
紫と氷の視線がぶつかり合う。
先に逸らしたのは、氷の視線の主であった。
「サクリアが無くなれば、あの地にはいられない。
あんたも、そのくらいわかっているだろう?」
低い声。
どこぶつけようもない怒りと焦燥が、オスカーの胸で荒れ狂っていた。
「本望だとは…、思わぬのか?
嬉しいと…。
私なら…、そう思うが…な。」
「な…にを…。」
何をバカなことをと言いかけて、その先を止めた。
紫の瞳に浮かんだ表情が、その言葉を止めた。
凍るような微笑。
その底でちらちらと熾火の見え隠れするような、冷たく熱い。
「かの女王は、誇り高い女だ。
それがどんなに辛いことであっても、かの女王は笑っているだろう。
おまえにも…、そうしたのであろう?」
別れの夜、確かにロザリアは微笑していた。
「ごきげんよう。
お元気で。」
最後に交わした言葉、そしてその時の微笑を、オスカーは鮮やかに思い出す。
「見苦しく取り乱すことなど、かの女王にはできぬ。
だから…、心を失った。
耐えられぬ負荷…。
何がおまえを縛る?
全宇宙の崩壊を引き換えにした女王の思いの前に、おまえは何を躊躇うのか?」
熾火の色は濃さを増し、闇の守護聖の瞳は時折赤く染まるように、オスカーには見えた。
「女王と関わるとは、こういうことだ…。
おまえには…、その覚悟がなかったようだがな。」
わけしり顔に決め付けられて、ふんと鼻先で笑う。
「候補であれば、その覚悟は要らないからな。
あんたには無縁の覚悟であったろうさ。
言うは易し。
所詮他人のことだ。
何とでも言えるだろうよ。」
ゆらりと、黒髪の長身が立ち上がった。
そのままオスカーの前に立つ。
「今この宇宙を支えているのは誰か…。
おまえは知っているか?」
薄い唇は冷たい微笑をたたえ、表情を消した紫の瞳がオスカーを見下ろしている。
「補佐官アンジェリーク。
あれが女王に代わり、その身を賭して支えている。」
アンジェリーク。
それはかつてクラヴィスが、候補から引きずりおろした少女の名前であった。
今は彼の元にあり、幸せに暮らしてると聞いていた。
その彼女が、女王の代わりに。
補佐官ももともと女王候補として召還された身であれば、女王のサクリアを持つに不思議はない。
だがその質量ともに、女王のそれに遥かに及ばぬはずである。
その彼女が、女王の身代わりをするとなれば、その身の負荷はいかばかりのものか。
「伝えて欲しいと、あれが言った。
人の世の時間は速い。
聖地にあれば、瞬きする間に人の一生は終わる。
だからおまえにすがりたいと。」
金色の髪をしたあの少女が、その身を賭けて伝えた思い。
ふうっと肩の力が抜けた。
胸のつかえが下りて行く。
激しく荒れ狂っていた、胸の嵐もおさまるようだ。
「ありがとう…と、あんたに言わなくてはならないんだろうな。」
初めて曇りのない微笑で応えた。
「あんたと、それから補佐官殿に。」
「お節介が過ぎると…、私はとめた。」
憮然とした表情。
「泣かれると弱い。」
ぼそりと投げ出した一言に、オスカーは一瞬目を見開き、声を上げて笑った。