Chamade(6)

「あきらめてくれないかな。」

ようやく探し当てたターゲット、やや薄い金の髪をした青年に、オリヴィエは言った。
冗談ではないと抗う彼を、補佐官が羽交い絞めにしている。
それでも必死の抵抗を続ける彼に、オリヴィエは冷めた表情で続ける。

「気持ちはわかるよ。
あんたには気の毒なことだと、心から思う。
でもね、仕方ないんだ。
あきらめてもらうよ。」

赤い大地に乾いた砂風の吹く惑星は、聖地に比べるべくもないひどい環境だった。
それでもこの青年にとって、かけがえのない故郷には違いない。
そこから連れ去らなくてはならない。
永遠に近い年月、戻れぬと告げて。
新守護聖の召喚は、本来オリヴィエの仕事ではない。
召喚といえば聞こえは良いが、その実は強制である。
おとなしく従う者は珍しかったから、手荒なこともしなくてはならない。
現役の守護聖に、そんな汚れ仕事が来るわけもなかった。
それでもオリヴィエは、自ら志願して捕獲隊に加わった。
その理由を誰よりも知る補佐官は黙ってそれに従ったが、オリヴィエの平然たる様にはいささかならず驚いていた。
眉一つ動かさず、オリヴィエは次期の守護聖に事実を告げる。
逃げても無駄だ、あきらめろと。
彼のよく知る上司オリヴィエは、ここまで冷徹ではない。
人の情の機微に敏感な、どちらかといえば優しく寛大な人物である。
だからオリヴィエが、ため息をつきながらターゲットに薬を使った時、補佐官は思わず口にした。

「もう少し加減して差し上げても良かったのでは…。」

ぐったりと倒れこんだ青年を痛まし気に見下ろす補佐官に、冷えた声が答えた。

「誰にでも優しいなんて、そんなの嘘だと思わないかい?」

視線を上げた先に彼が見たのは、表情のない沈んだ青の瞳だった。
ぞくりとする。
こんな顔の上司を、彼は知らない。

「わたしが優しくいられるとしたら、その相手はそいつじゃない。
この世に、たった一人だけだよ。」

そう続けた後、オリヴィエはくるりと踵を返した。

「帰るよ。
そんなに時間はないんだ。」

汚れ仕事を他人任せにできないほど、それほど焦っているわけを、補佐官は知っている。
あの日、前の女王が退位して聖地を去った日から、オリヴィエは変わった。
毎日のように研究院へ通っては、下界に夢のサクリアの萌芽はないかと調べる。
守護聖の交替を一日も早くと、呪文のように繰り返した。
時折、天を仰いでは創造主に願う。

「もういいだろう。
あんたの望みはかなえてやったじゃないか。
今度はわたしの望みを聞いてほしい。
早く、早く解放しておくれ。」

そして今日、彼は次期の守護聖を捕らえた。
それはオリヴィエが、ようやく自由になれることを意味している。
自由に、ただ一人心から愛する人のもとへ向かう自由を。
聖地へ向かう宇宙船の窓に、数えきれない星々が映る。

「もうすぐだよ。」

オリヴィエの目交に、愛しい蒼の瞳がちらついた。

 

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