O ma Rosalia!(3)

(3)

新女王の即位でにぎわうその日に、前女王ロザリアは姿を消した。
言葉どおり、誰にも告げず、ひっそりと静かに。
そうするだろうと、どこかに予感があった。
あいつなら、たぶんこうするだろうと。
彼がどんなに行くなとすがったところで、サクリアの尽きた女王が聖地に残ることなどできるはずもない。

昨夜、彼の腕をそっと振りほどき、彼女は微笑した。

「お別れですわ、ゼフェル。」

それはもう何もかもを受け容れた表情だった。
あんな顔の前では、ただ行くなとわめきたてる自分が、どうしようもない駄々っ子のようにしか思えなくなる。
それでも行かせたくはない。
彼女なしで、この先ゼフェルはどうして生きていけるだろうと思った。

「くそ!」

運命とか、宿命とか、そんなものを司る誰かがいるのなら、そいつに跪いて縋り付きたい。
何を差し出しても良い。
あいつを連れてゆかないでくれと。
けれど、ゼフェルの望みは届かなかった。
ロザリアはただ黙って首を振り、女王の寝殿へ姿を消した。
それはたとえゼフェルが守護聖であっても、けして立ち入ることの許されない聖域である。
見送るしかない自分に、ゼフェルは心底腹が立った。
ただ思いだけで突っ走れた昔の、無邪気な無鉄砲さを失った今の自分。
どうしようもないこともあると知ってしまった今の自分が、とても腹立たしく悲しかった。

彼女は去った。
ゼフェルとは違う時間の流れるどこかへ。
もう彼女を知る人など、誰もいないそこで、これから先を生きてゆくのだろう。
そしてそれは、彼にもいつか起こることであった。
鋼のサクリアがなくなれば、彼の意志とはかかわりなく聖地を去らねばならない。
どこだって同じだと、ゼフェルは思う。
ここ聖地がよそと違っていたのは、ただ1人、ロザリアがいたから。
だから特別な場所だった。
彼女さえいれば、聖地だろうが下界だろうが、どこだって同じ。
そして彼女がいないなら、またどこも同じなのだ。
天と地ほど違うが、同じには違いない。
あいつもそうじゃねぇのか。
そうあってほしい。
そう思ったら、立ち上がっていた。
新女王即位の祝宴の席を、ためらいもせず立つ。
無作法をとがめる声がかかったようだが、委細構わず外に飛び出した。
ばたばたと私邸に戻る。
作業場へ直行し、こもった。
その後、聖地時間で3日の間、鋼の守護聖の姿を誰も見ることはなかった。

 

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