夜曲(9)
「気がついた時、わたくしはもうこの姿でした。 人の姿を失って、それでもわたくしは嬉しかった。 これで貴女をお待ちできる。 ただそれだけが、わたくしの望みだったのですから」 リュミエールは、長い昔語りをそう結んだ。 月… 夜曲(9) の続きを読む
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「気がついた時、わたくしはもうこの姿でした。 人の姿を失って、それでもわたくしは嬉しかった。 これで貴女をお待ちできる。 ただそれだけが、わたくしの望みだったのですから」 リュミエールは、長い昔語りをそう結んだ。 月… 夜曲(9) の続きを読む
冬の終わりを告げる嵐が、穏やかな海に吹き荒れた晩の事だった。 激しい雨風が館の窓を叩き、ガタガタと恐ろしい音をたてていた。 しばらくくすぶり続けた胸の不安を、そのまま映したような空模様に、リュミエールの身内で何かが… 夜曲(8) の続きを読む
白々と降り注ぐ月の光の下、銀色に輝く長い毛並みをロザリアは愛しげに抱きしめた。 「ようやく会えましたわ」 戸惑いも恐れも何もないその声に、リュミエールはほうとため息をつく。 「あなたという方は……」 まるで驚きもし… 夜曲(7) の続きを読む
あれ以来、銀色の髪をした青年は、思い出したようにふいっと、ロザリアを訪ねて来るようになった。 それはいつも突然で、気がつけばそこにいるといった風に。 日暮れてしばらくした頃、いつのまにか現れる。 別にとりたてて何… 夜曲(6) の続きを読む
湿った緑の匂いがする。 開け放った窓からの風は、木々の息吹をたっぷり含んでいて、季節は初夏に移ったのだと知らせてくれる。 生成りの麻のカバーをかけたソファに深々と身を沈め、ロザリアはただぼんやりと夕暮れの景色を眺め… 夜曲(5) の続きを読む
「はい、卵。おまけを1つ、入れておきましたからね」 淡い水色の髪を背中でまとめた青年が、手籠を返してよこす。 中には茶色いこぶりの卵が11個。 割れないようにとの気遣いか、ところどころに古新聞を詰めてある。 「あり… 夜曲(4) の続きを読む
波の音が聞こえる。 繰り返し繰り返し、寄せては返し、また寄せる。 ソファに身を沈めたロザリアは、目を閉じてその繰り返す規則的な音を聞いた。 暖炉に揺らめくオレンジ色の炎。 テーブルの上には、透き通ったクリスタル… 夜曲(3) の続きを読む
浅い春の午後、日差しはまだ弱い。 海から吹く風は、まだ冬の名残をたっぷりと残して、冷たく尖っていた。 身震いをして、ロザリアはコートの襟元をかき合わせる。 黒い革の手袋をした手首を、片方の手でしっかりと握り締め、… 夜曲(2) の続きを読む
わずかな揺れの後、音もなく地上車は停まった。 「目的地です」 オートドライブモードのナビが、乾いた声でそう告げる。 長い手袋をした指で、コートの前をしっかり合わせると、ドアを開けた。 途端、どっと流れ込む潮の香り… 夜曲(1) の続きを読む
白い布のかけられたイーゼル。 ずらりと並んだそれが、まず目に飛び込んだ。 老婦人が丁寧に一枚づつ取り去ってゆく。 ごわごわとした木綿の触れ合う音がして、後に現れたのは。 息をすることをロザリアは忘れた。 12枚の肖像画。… Shadow ~In Perfect Unison~(14) の続きを読む