Chamade(2)
遠い昔、女王試験があった。
宇宙が寿命を迎えて滅びるというその時に、再生を担う女王を選ぶのだと、そんな大層な女王試験が。
当時の女王は、崩壊しかけた宇宙を支えるために、その身に宿る力を間断なく注ぎ続ける必要があった。
結果、その力はどんどん目減りして、至急に次期の女王選定をと命が下る。
「今度の女王試験は、異例づくめだ。」
首座の守護聖ジュリアスが細い金色の眉を寄せて、難しい表情で告げた。
2人の女王候補に課せられる試験の内容が、大陸の育成であること。
その試験のために守護聖9人すべてが、候補とともに飛空都市に移住すること。
ジュリアスがそれらを説明すると、他の守護聖たちから当然不安の声があがった。
主に年少の守護聖からのものだったが、それ以外の者にも正体のわからぬ試験への不安がないはずもない。
「それで?
いつ行けばいいのさ。
その飛空都市とやらへは。」
落ち着かない空気の中へ、ぽんと投げられた冷めた声。
皆が声の主へ視線を向けた。
「急ぐんだろ?
さすがに今日行けとは言わないよね?」
金色の巻き毛の一束を指先でくるりとやって、夢の守護聖オリヴィエが無表情に言った。
「ああ、そなたの言うとおりだ。
支度の整い次第、できる限り迅速に移動してほしい。」
さすがに冷静なジュリアスが皆に言い渡すように答えると、オリヴィエはくるりと背を向けた。
「じゃ、わたしは支度があるから。」
銀色の細いヒールがカツンと鳴った。
人工的なアルデビドの華やかな香りを残して、その主は広間から消える。
「オリヴィエらしいですね。」
くすりと笑った水色の髪の守護聖が、気を取り直したように続ける。
「わたくしたちも参りましょう。
仮住まいとはいえ、それなりに支度は必要でしょうから。」
リュミエールのその言葉をきっかけに、それぞれが自分の館へ戻っていく。
なるほどオリヴィエの言うとおりだと、彼らも思ったから。
ここで騒いでも仕方ない。
女王の命、それは絶対である。
それにしても、オリヴィエはいつもながら切り替えが早い。
リュミエールは、ほぼ同時期に守護聖に就任した同僚の、昔と変わらぬ気性を思う。
あの時、聖地に来たばかりの頃もそうだった。
いきなり連れてこられたこの聖地で、宇宙の命運をおまえに委ねるなどと言われて、動転しないものがあろうか。
毎日不安でびくびくしていたリュミエールには、オリヴィエはいつも平然として見えた。
下された命を、たんたんと涼しい顔で受け容れる。
本心はわからない。
人当たりの良い微笑を浮かべたオリヴィエは、薄いベールの向こうに本心を隠して、だれにものぞかせない。
長い年月を共に過ごしたリュミエールは、それを知っている。
ともあれ移住の準備をしなければなるまい。
オリヴィエの言うとおり、事は急がねばならないのだろうから。
明日、発てるだろうか。
小ぶりのハープを調律しておかねば。
リュミエールの思考も、身近な現実へと向かっていった。