O ma Rosalia!(2)
(2)
「明日、退位しますわ。」
ある夜、いつものテラスで、空を見上げて彼女は言った。
まるで明日の天気を占うような、軽い調子で。
「え?」
だから彼もすぐには状況が飲み込めなくて、間の抜けた声を返す。
遅れて、言葉の意味を理解する。
退位。
退位と言ったのだ。
見上げる空の色よりも濃い、蒼い瞳のロザリアは、この宇宙を支える女王である。
その彼女が退位。
つまりここ聖地を去るということだと。
「おめぇ、そんな大事なことを、さらっと簡単に言うな。
いきなりすぎんだろ!」
次期の女王試験が始まって、そしてその勝敗もおおよそ見えてきた。
次に来るのが女王の交代だとは、彼にもわかっていた。
覚悟はしていた。
そのはずだった。
けれど現実に彼女の口から告げられると、逃れようもない事実として目の前に突きつけられる。
とても冷静ではいられない。
「サクリアの尽きた女王が退位するのは、当然でしょう。
できるだけ早く、新女王に全権を渡さなければなりませんわ。」
<そうしたら、おめぇはどうなる!
ここを出て、おめぇはどうすんだよ!>
心の叫びを、ようやくの思いで飲み込んだ。
口にしてどうなる。
彼女にだって、はっきり答えられるはずもない。
追い詰めてどうする。
きっと不安に違いない彼女の心に、寄り添ってやることが彼の役割だというのに。
うつむいて、一つ大きく息を吐いた。
「それで、いつ発つつもりだよ。
おめぇのことだ。
もう、決めてんだろ?」
明日とか言ってくれるなよ。
祈る思いであったが、できるだけ平静な声を出そうと努力した。
「言いませんわ。」
ふわりと微笑して、彼女は言った。
「おめぇ…!
言わねぇって、どういうことだよ!」
懸命に被ったおとなしい猫の毛皮を、彼は投げ捨てた。
誰のために、叫びだしたい思いをこらえていると、こいつは思っているのか。
「見送られたら、行けなくなりますわ。」
綺麗な微笑が、ほんの少しだけにじんで歪む。
「ゼフェル、絶対どこかで見てるでしょう?
それくらいわたくしにだってわかりますわ。」
「ばか…やろ…。」
どうしてここで悪態をつく。
己の語彙の乏しさに愛想がつきる。
もっと、もっと、気の利いた言葉がどうして出てこない。
図星だったからだ。
ロザリアの言うとおり、きっと彼は見送ることになる。
どこかから、去ってゆく彼女を見送るだろう。
「い…くな…。」
かすれた声。
口にしたら、とまらない。
あふれだす熱が、行き場を求めてあえいでいた。
何かを思うより先に、身体が動く。
青い袖で覆われた彼女の腕をひっつかんで、胸に抱え込んでいた。
「おめぇの他には、なにもいらねぇ。
だからよ…。
行くな、ロザリア。
行くなつってんだ!」
胸のはりさける音を、聞いたような気がした。