O ma Rosalia!(5)
エピローグ
「ゼフェルはまるで人が違ったみたいだよね。
仕事ばかりしてる。
それもかなりハードなものばかり、自分から買って出るなんてさ。」
聖地の庭園のベンチ。
ブラックベリーのアイスクリームをぺろりとやりながら、緑の守護聖マルセルは金色の眉を寄せた。
「仕事の虫だよ。
あれがジュリアス様なら、わかるんだけど。」
謹厳な首座の守護聖ジュリアスならば、なるほどそれもあるだろう。
けれど彼はゼフェルなのだ。
自分の興味にのみ忠実で、しなければならない仕事をさすがにさぼることこそしなかったが、できるならしたくはないのだという色が見え見えで、よく年長の守護聖からお小言を頂戴していたものだった。
その彼が、休日返上で仕事を始めて既に半年が経つ。
はじめこそ結構なことだと喜んでいたジュリアスも、さすがに心配になってきたようで、
「無茶をするものではない。」
などと、働きすぎを諫めるようになってきたこの頃である。
「俺はさ、なんとなくわかるような気がするんだ。」
空色の瞳に、少しばかり翳りをのせて、風の守護聖ランディが答えた。
「あの頃からだろ。
ゼフェルがああなったの。」
二人、目を見合わせる。
菫色の瞳が、伏せられた。
「そうだね。」
「俺たちには、何もしてやれないんだ。
だったらさ、俺たちだけはゼフェルのこと、黙って応援してやりたいと思うんだ。」
自分たちにも必ずいつかは来ることを、ゼフェルは少しだけ早くに経験した。
大切な人との別れ。
自分が去るより、なおいっそう辛いことに違いない。
「でも食べることだけはしなくっちゃね。
僕、帰りに何か差し入れるよ。」
気を取り直したように、明るくマルセルがぴょんと立ち上がる。
「ランディも行くでしょ?」
頷いてランディは、先を行くマルセルを追った。
せめて気遣ってくらいやりたかったから。
サクリアの発動や消失に、規則性はない。
そう教えられて、かつて強引に人の世界から連れ去られてきた。
ゼフェルのもつ鋼のサクリアも、いつなくなるかは誰にもわからないはずだった。
けれど、ほんとにそうかとゼフェルは思った。
ロザリアの前の女王、滅びかけた宇宙を支えた女王は、日々すさまじいサクリアを使っていたために、そのサクリア消失が早まったのではなかったか。
そうであれば、それと同じことをすれば、意識的にサクリアを使い切ることができるのではないか。
そう思いついてから、ゼフェルはとにかく仕事に集中した。
特に大きな案件、危険の伴う案件には、真っ先に名乗りをあげた。
大きな案件は、それだけサクリアの消費量が甚だしい。
望むところだったから。
朝も昼も夜も、時間などおかまいなしで励み続けて、半年が過ぎた。
いまだサクリアの輝きに、翳りは認められない。
「ったく、どれだけ力が余ってんだよ。
俺の身体はよ。」
忌々しく思うが、この際こうする他に、彼の望みをかなえる方法はない。
努力とか根性とか、かっこ悪いと馬鹿にしてきた言葉だが、今のゼフェルは日々その言葉にしがみついて生きているようなものだ。
きっといつか、いつかあいつの傍に立つ。
それまでは不本意ながら、あのアンドロイドがゼフェルの代わりだ。
送られてきたロザリアの日常は、専用端末のモニターで日々確認している。
「待ってろよ、ロザリア。」
明日、遠い恒星系に出向くことになっていた。
惑星の崩壊をくいとめるという、かなり重めの任務である。
きっと膨大な量の力を、必要とするだろう。
にやりと笑って、指を鳴らす。
モニターのロザリアが、微笑んだような気がした。